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東大生の僕がエリート街道を拒絶した理由。

東大生の多くは、中学受験を経て、私立中高一貫校へ進み、東大を受験して、そのまま五大商社など一流企業へ入っていく。
これがいわゆる「エリートコース」だ。

僕は、この道を辿っていない。
非進学校から東大に進学し、ずるずると休学を駆使しながら東大に在籍し続け、その傍らでライターや講演活動などの仕事を行っている。

それなりの報酬を頂いてはいるが、「エリート」な同期たちよりは手取りが少ないだろうことは容易に想像できる。
では、どうして僕が「エリートコース」を蹴ったのか。

それは、僕が大学3年まで在籍していた東京大学運動会応援部での体験に起因している。

東京大学運動会応援部とは

東京大学運動会応援部は、いわゆる大学の応援団だ。
東京大学の名を背負っているだけあり、それなりの歴史がある。
たしか80年だか90年だか、それくらいあった気がする。

東大の応援部はリーダー・吹奏楽団・チアリーダーの3つのパートに分かれており、僕は吹奏楽団に所属していた。
吹奏楽付きとはいえ、応援部なのだから、厳しい部の規律は適用される。

応援部の特徴は、厳しい上下関係が挙げられる。
とにかく下は上に絶対服従。
それゆえに上層部の決定にはそれなりの責任が伴う。

また、後輩たちは後輩たちで、先輩から浴びせられる理不尽な指示に疑問を感じながらも従い続けることを余儀なくされる。
だからこそ、横の結びつきが強くなりがちだ。
同期がお互いに励ましあって、理不尽に耐えるのが、応援部の日常。

同期とは、ともに助け合い、互いの失敗やミスをカバーしあう。
そんな関係であると僕は考えていた。

だが、そう考えていたのは僕だけだったようだ。

僕が応援団を辞めた理由

僕は大学3年の冬に応援団を辞めている。

応援団の代替わりは3年の12月末に行われる。
応援団の4年生は「神」と同列に扱われるので、僕はその直前の一番うまみがない時期に辞めたことになる。

なぜそんな時期に辞めたのか?
それは、すべての応援団部員に、特に同期吹奏楽部員に対して不信感が募ったからだ。

そもそも僕が大学3年生だった年は、東大が連盟行事の主幹校であった。
簡単に説明すると、東大を含む東京六大学連盟は、毎年合同で演武会や演奏会などを開催するのだが、その運営校は持ち回りで担当される。
そして、応援団における実務担当は3年が務めるのが一般的だ。
要するに、僕が3年生のときが、いちばん仕事が大変な年だったのだ。

主幹校に任命されると、その学校の3年生が様々な仕事を任される。
僕は、連盟の会計任務を請け負った。

僕は金勘定が嫌いではないし、得意だったので、仕事に不満はなかった。
だが、ひとつだけ条件を提示していた。
それは、合同演奏会への不参加表明であった。

合同演奏会とは、六大学の吹奏楽団、チアリーダーが合同で行う演奏会のことだ。
これの会計は大変な仕事で、業務量も多かった。
だから、演奏会には何があっても参加できない。
そう表明していた。

当時の演奏会のまとめ役も東大であったから、確認をとった。
もちろんOKと快諾頂き、そのつもりであった。

だが、実際に演奏会のメンツをそろえてみると、どうやらチューバ(僕の担当楽器)が足りなくなったようだった。
そして、僕に演奏会出演のオファーがやってきた

僕以外にもたくさんの部員がいたはずなのだが。
そして、うわさによれば、慶応のチューバ担当者は「練習場所が家から遠いから出たくない」と断ったと聞いた。

僕は「連盟会計の任務があるから」と正当な理由があるはずだ。
それにもかかわらず、「家が遠いから」なんて理由の人は不参加を許されて、僕に回ってくるのはおかしくないか?
そう考えたし、伝えたが、らちが明かなかった。

それで押し切られて、結局演奏会に乗ることになった。
だが、やはりここでも「連盟会計の仕事が優先なのだから、練習にはあまり顔を出せない。欠席でも許してくれ」と念を押した。
東大の同期であった担当者は僕に「それでいい」といった

しかし、やはりまた裏切られる。
練習に出ない僕に「どうして練習に出ないの?」「頼むからもっと参加してくれ」と言うようになった。

もうひとりチューバで出演者がいるのだが、そちらは「大学の研究が忙しいから」と欠席を許されているようだった。
学業優先なのはその通りだが、僕の仕事も優先ではなかったろうか?
とんだ二枚舌外交だ。

そうして練習に出る。
すると、僕が一番うまいのだ。
周りの部員はみんな練習不足で、ろくに楽譜もさらえてはいない
そんな状況で、よく忙しかった僕に「練習に出てくれ」なんて言えたものだと内心で感心していた。

だが、部員たちはどこ吹く風で「やり切った感」を出している
練習が終わったらロクに居残りもせず、「夜ご飯どこに食べに行く~?」なんて間抜けな声を出している。

危機感というものを持ち合わせていないのだろうか?
自分の演奏のレベルを自覚していないのだろうか?

彼らにとって、結局演奏もルーティン・ワークのひとつにしかすぎないことをここで知った。

他にも色々とあったのだが、ここで学んだことは「同期で助け合う」なんて幻想にすぎないということだ。
僕の認識では、僕の負担が異様に多かったように思えたし、それを伝えても無視されていた。
これでよく「同期で助け合って」なんて言えたものだ。
『ワンピース』を義務読書にした方がいいんじゃないか?

僕がエリートコースを外れた理由

僕がエリートコースを外れたのは、「こういう人たちがエリートコースには多い」と感じたからだ。
人当たりは良くて、思いやりもあるようで、口先も丁寧で、理想も高く、まるで表面だけ見ると人格者のようだ。
だが、実際は自己保身に必死な小人物にすぎない

吹奏楽はある種実力勝負の世界だ。
僕はマーチングドリルでも演奏でも、どちらでもある程度力があった。
無能が年功序列というだけで口出ししてくる環境が、どうしても許せなかったこともある。

東京大学運動会応援部は(それに限らず運動会出身者は)就活に強い
同じ部活のOBやOGの引っ張り上げる力が強いからだ。

東大応援部の主な就職先は、三菱商事、三井物産など。
まぁそうだろうな、といったラインナップだ。
官僚になる人も多い。

応援部で生き抜ける人物は、とにかく責任回避がうまい人物だ。
上からにらまれると生きていけない世界なので、目立たず、騒がず、責任をとらず、そつなく仕事をこなせる人物が生き残りやすい

結果として、冒険したがる人は消えていく。
勝手に保守的な組織が完成する。

大学4年生になって「神」になったら、部内を改革できると思うか?
そうではない。
「神」ですらも、卒業していったOBOGたちに睨まれている。
かりそめの神には、物事を変える力なんてない。

応援部にいるとき、ずっと心から違和感が拭えなかった。
「本当に信用できる」と思った人物は、大学1年から4年になって今の会社に入るまで、ひとりとしていなかった。
それは、彼らの自己保身的な本性を見抜いていたからだったようにしか思えない。

だが、日本を動かしているのは、こうした自己保身にまみれた「エリート」たちであることは確かだ。
悲しいかな、処理能力だけはあるので、仕事は早い。

攻めた仕事ができないにせよ、前例のある仕事を片付ける能力は群を抜いている。
そういった意味では、会社からしても「使いやすい」人材であると思われる。

だが、そうした人々とは同じ空気を吸っていたくなかった。
自分がやりたいことをやりたいといって何が悪いのか?
その思いは心から消えなかった。

僕が書いたマーチングの動きの指示書は、不評だったように思う。
難しいと言われた。前例がないとも言われた。

だが、難しくて、前例がなくて、何が悪いのか?
その程度のこともできなくて、何が「マーチングドリルを活動の主軸に置いています」と唱えられる団体なのか。

応援部のもたらした弊害

結局僕は、大学に入ってから3年間もの時間を棒に振った。
あまりいる意味がないまま、「就活に強い」という欺瞞を信じて、ただ在籍し続けただけだった。

でも、就活に強くて何なのか?
結局、自己保身に走りたがる人物が同じ仲間を集めて喜んでいるだけではないのか?
進学校を進んできた人たちっぽい考えだなぁと思う。

僕は応援部でのストレスから病気を発症して、大学をしばらく休学することになった。
就活なんてもってのほかで、ろくにエントリーシートも書けなかった。

おかげで今のライターとしての道が開けたのだから、結果オーライではあるのだが、だからといって、あの団体にいたことを後悔していないわけではない。

これらはすべてぼくの被害妄想なのかもしれない。
だが、僕が部活を休部しているとき、僕に声をかけてくる部員はいなかった。
僕が辞めるとメールを出した後も、ただの一人も僕に対してメッセージを送ってくることはなかった。
「助け合い」が本分ならば、なにかアクションがあってもおかしくないと考えるのは、少し贅沢が過ぎるだろうか。

それから3年。
吹奏楽の同期とは一言も口をきいていないし、顔を見てもいない。
もはや、僕も名前も顔も忘れてしまった。
いまあっても気がつかないかもしれない。

ここから得られる教訓は一つ。
「合わない」と思った団体からは、すぐに抜け出ろと言うことだ。
僕は大学に入ってから3年間という貴重な時間を無駄に消化してしまった。
この時間があれば、僕はもっと早くから本を書けていた。

時間は前にしか進まない。
後を振り返っても後悔しかない。
だからこそ、今の自分がいる位置をしっかりと確かめて、今の位置を生きているべきなのか、常に考えてほしい。

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