南野知惠子解説本と読み解く、特例法の「???」を考える④〜生物学的性別は不変〜

第4回です。
今回はちょっとボリューム少なめ。
でも重要であることには変わりありません。

ぜひ、みなさんの考えるきっかけや、参考、議論の糸口にしてみてください。

※本記事を書くにあたっては、南野知惠子『【解説】性同一性障害者 性別取扱特例法』(以下、解説本)を大いに参考にいたしました。(図書館で借りれますよ)


■「趣旨」。特例法はあくまで「法令上の扱い」だけ!

まずは、この引用部分を確認してください。
ひとまず、なんとなくで結構です。

(趣旨)
第一条この法律は、性同一性障害者に関する法令上の性別の取扱いの特例について定めるものとする。
1本条の趣旨
本法律が性同一性障害者に関する法令上の性別の取扱いの変更を認める特例について定めることを明らかにするものである。
なお、本法律が妥当する範囲及びその効力は、性別にかかわる法令を適使用する関係で、性同一性障害者の法令上の性別の取扱いを変更することにとどまるものであり、それ以外のところでのその性別の取扱いについてまで必ずしも定めるものではなく、ましてやその生物学的な性別まで変更するものではない。

南野知惠子【解説】性同一性障害者 性別取扱特例法

要約すると、
「特例法の妥当する範囲と効力は、
法令上の性別の取扱を変更することだけ。
それ以外のところでの性別の取扱についてまで必ずしも定めるものではなく、ましてや生物学的な性別まで変更するものではないよ~」
と定めているのです。

特例法の言う「それ以外のところ」ってどこなんでしょうね?

病院とか……?

まぁいずれにせよ、これって
生物学的性別をすくなくとも完全には無視しては駄目だ、まずいことが起きる場合もある(かもね)
くらいの認識は制定時にすでにあり、
その場合は必ずしも「法令上の変更」で縛らないよ、と逃げを打ってるというか、幅をもたせてる法律だ、ということになりますね。

ですが、女からしたら男女別に分かれてる施設や制度などの全てで
生物学的性別を無視されたら「まずい」わけですし、
特例法の存在自体が、自己矛盾の塊ですね。

だから特例法は、中身を追えば追うほど、本当は自ら瓦解するしかない内容ではないか?と私は指摘したいのです。

■第4条2項 遡及させることも可能

こちらも見てみましょう。

Q48 第4条において「法律に別段の定めがある場合」には、性別の取扱いの変更の審判の効果が通常とは異なることがあるとした趣旨は何ですか。
A
性別の取扱いの変更の審判を受けた人は、第4条第1項の規定により他の性別に変わったものとみなされることとなりますが、その場合でも性別が変わったとみなすことが困難な場合がないとはいえないことから、審判の効果は「法律に別段の定めがある場合」には及ばないこととしているものです。
第4条第2項の審判の効果の不遡及という点についても、審判の効果を遡及させるべき場合があるという可能性を否定することはできないことから同様の規定を置いています。
なお、法律の制定時においては、第4条第1項及び第2項の「法律に別段の定めがある場合」に該当するものとして具体的に想定されていたものは特にありませんでした。

南野知惠子【解説】性同一性障害者 性別取扱特例法

要約すると
「性別が変わったとみなすのが困難な場合がある可能性もある。
そういうときのために、
法律に別段の定めがあれば、”性別が変わったというみなし”は、遡って無効にすることだって できないわけではないよね」
という逃げ?幅もたせ?です。

女性からすると男の性別が女に変わったとみなす、なんてもの
受け入れるのは困難な場合だらけなのですが、
それを証明できる法律が作れれば、
「◯◯においては、あなたのみなしは遡って無効!」
と出来る可能性は秘めているということでしょうか。

■第一条から「事実に基づく指摘批判は差別ではない」と言えそう

第一条から言えるとしたらなんでしょう。

「女性としての身分証を手に入れ、女性議員と名乗ることは、法令上は可能かもしれないが、あなたは生物学的には男性だ

だからあなたには生物学的女性の代表としての声を上げることはできない。よって、それを可能にさせている特例法は矛盾・問題のある法律だ。と指摘・批判すること」

は差別ではない。

とか、
「法律による男女別の定めが存在しない女子トイレは、
生物学的男性の使用は禁止、と施設管理者が決めること」

は差別ではない。

などが言えそうに思います。
どうでしょうか。

だけど繰り返しますが
女性からしたら
どこか一箇所だけ突破されると「まずい」、とか、
でもそこでなにか条件をつけた男なら「まずくなくなりますよ」
とかではなくて、
男女別に分かれてる全てが生物学的性別を無視されたら「まずい」のです。

特例法によって法令上の性別の取扱いという超重要なポイントを「変更」されているのは、いわばオセロの四角を男性に取られている状態なので、
女性が抵抗することは非常な困難となります。

現に、女性の「男は女性専用施設に入らないで」の声は
弁護士達によって「抽象的な不安であり失当。差別だ」とされています。


何が「違法・差別」と取られるか、後ろ盾があるのはどちらか、というと
女性は非常に弱い立場に置かれている、と言えるでしょう。

■第四条で無効化したとしても残る”ウイルス”

第一条と第四条との合わせ技で、
風呂はこう、トイレはこう、女子大はこう、助産師は……とひとつひとつの事例について、性別取扱いの変更審判効果を無効とする法律。
もしくはいっせいに無効化する法律。
これを定めることができれば
いいかも?というのはひとつあるかもしれませんね。

しかし、特例法の存在自体が問題です。

女性の尊厳安全生命の保護に関して「国が合理的だと認める範囲」は、多くの女性の価値観と大きく乖離した範囲へと規定し(=女は男が女湯に居ても、助産師が男であっても、性器整形してあれば平気だろ、という判断)、

女性女児の尊厳安全生命についてまったくと言っていいほど考慮されなかった・無価値であると判断した……

……特例法が、そういう法律であることは
第二回で述べた通りです。

だって、考えてみてください。
「遡って無効化する」について。
どうですか?
たぶん多くの人が一番に思いつくのが、
女性女児に対する性犯罪を行ったら、遡って変更取り消し!」だと思うんですよ。
(もちろんそれどころじゃなくて男が女湯等に入れる自体が重大な性加害なんですけど)
明確に性犯罪として逮捕された場合の対応すら規定してないし、考えた形跡もない………

「合法に女湯等に入る」に至るまでのいくつもの段階、
診断や、改名や、戸籍記載変更の審判でも
「過去に女性女児に対する性犯罪歴があるか」
なんてまったく考慮されません。

そして女性たちの「男は女性専用施設に入らないで」の声は
弁護士達によって「抽象的な不安であり失当」とされている現状。

そういう診断であり、そういう法律であり、そういう日本です。

このような法律がある、その存在自体によって世の中の
性別についての判断、また女性の尊厳等についての判断を狂わせ、
じくじくと、倫理観と女性の尊厳等を侵害していきます。

特例法はそんなウイルスのような存在なので、変更の効果を完全無効化し、審判の遡及を行うことができたとしても、
それとあわせて
存在の有害さをかんがみて廃止とするのが
望ましいと私は考えます。


続きます。
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