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仮免試験で首が折れかけた話

 車の仮免試験を受けに行った。朝一で教習所に行き、まずは技能検定を受ける手筈だった。

 技能検定においてはコースや注意事項のおさらいを兼ねて、受験者は後部座席で別の教習生の検定を見守るのだが、問題はそこで起きた。
 
 私が同乗した教習生は、同年代か少し若い位のイケメンパーカー男子。返事もハキハキしており、出来るオーラと自信が滲み出ている。

 これは心配せずに見届けられそうだと私は心穏やかに後部座席に乗り込んだ。そしていよいよ試験官が発車の指示を出し、イケメンが操る車は滑らかにスタート。そして数秒後、「ボスン」という音が車内に響いた。
 
 私の額が前の座席の背に元気よくめり込んだ音である。原因はイケメンがこれまた元気よく踏み込んだブレーキである。私は頭を席から離しながら、始めイケメンが何かミスを犯したのだと思った。しかしその直後車がギッコンバッコンし、また座席に頭突きをお見舞いした時、私は状況を悟った。

 このイケメン、ブレーキを0か100かでしか踏まないタイプの人間であった。そして検定だからか車の速度だけはかなり抑えている。運転出来る方は分かるはずだが、車の速度が遅い方がブレーキを強く踏むとガックンガックンなりやすい。
 その結果、油断していた私の頭部は慣性に襲われ、イケメンによるダイナミックブレーキの度に後部座席ではメタルバンド顔負けのヘドバンが展開された。

 アシストグリップも気休め程度にしかならず、イケメンの運転は昔痛めて元々弱い私の頸椎を確実に削っていく。後頭部はバスケットボールよろしくヘッドレストをバウンドし続け、検定が半分も終わらない内に首はギシギシと折れそうな音を立て始め、かなりな痛みが走った。普通の人なら耐えられる衝撃かもしれないが、私の脆い首だとそうもいかないのである。
 
 事故らず、人を殺さない運転が出来るかどうか見極める検定のはずが、このままだと人を轢く前に車内で死人が出かねない。死因が「仮免試験」の人間と罪状が「ブレーキによる殺人」というレアケース人間が二人爆誕してしまう。この時点で私の首は限界に近かった。そこで最後の希望として、厳しく注意してくれないかと私は助手席の試験官の方を縋るように見た。

 私と同じくらいヘドバンをかましている人間がもう一人、そこにいた。

 首がえらいことになっていたのは私だけではなかった。試験官だからといって慣性の法則を無視できる訳もなく、イケメンブレーキによって彼の体も制御を失い、衝撃で座席を跳ね回っていた。そして深刻な事には、試験官である彼は検定が故に運転に口出しが出来ない。つまり既に首がもげかけのここから、検定が終わるまでひたすらバインバインしてないといけないのである。私は控えめに言って死を悟った。
 
 コースのおさらいどころではない教習生と、検定の採点どころではない試験官。そして同乗者が死にかけていることに気付く由もなく、真面目な顔をして狂気のブレーキを続けるイケメン。車内の犠牲者は二人になった。

 イケメン、もとい処刑人は唯一ブレーキのタイミングを把握しているため平気な顔をして車をギコギコ進ませていたが、その他二人は為す術なく検定の最後まで全身でヘヴィメタルを体現し続けた。

 その後、なぜか首がジンジンしている教習生一人がなぜか首がジンジンしている試験官と技能検定を行った。

 許せないのは、他にも色々ミスっていたクレイジーブレーキ野郎も私と一緒に合格したことである。私の意見としてはあんなもんを路上に解き放ってはならない。歩行者を轢かなくとも助手席の教官がまず無事では済まないのが目に見えている。

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