他者と働く─「わかりあえなさ」から始める組織論
あー、会社やめたい。
チームが上手に回らない。
組織ってめんどくさい。
多くの人がそんな風に感じたことがあると思います。
組織で働くことは面倒くさい。
なぜなら、
他者とはわかりあえないから。
そんな、どうしようもない現実をもとに、少しでも「他者とわかりあい、より成果をあげる」ための考え方を教えてくれる本を読みました。
デザイナー、エンジニア、ディレクターなど、レビューが多い方、新規事業や企画に携わる方は、コミュニケーションの課題がよく起きると思うので、読んでみるといいかもです。
はじめに
本書は、対話を中心としたナラティブアプローチという手法で、組織におけるコミュニケーション課題をどう解決するか、がテーマです。
課題の整理
組織で発生する課題は、大きく 2 つに分けられる。特に、解決が難しいのは適応課題。
1. 技術的課題
既存の手段やツールで解決できるもの。
たとえば
スタッフ間でデータ共有できてない
解決
クラウドのストレージサービスを利用する
2. 適応課題
関係性のなかで発生するもの。単一で明確な解決が存在しない。
たとえば
ストレージサービスの導入を提案したが、リスクを理由に他部署から反対された。
解決
リスク回避の説明だけでは不十分なことが多い。
本当の反対理由は「自分の持っているデータを共有されると、自分のアドバンテージがなくなる」だったりする。
わかりあえなさの原因
適応課題は「他者とのわかりあえなさ」が原因。
では、なぜ、他者とはわかりあえないのか。
結論
みんな、それぞれの立場から、それぞれの正しい意見を語るから。
以下、補足。
1. みんなの立場が異なる(ナラティブ)
ナラティブとは、立場のようなもの。個人の性格および仕事上の役割から発生する。ナラティブは、人それぞれ異なり、中立的な意見というものは存在しない。そのため、複数人があつまると、立場の違いから意見の相違が生まれる。これが適応課題のもとになる。
2. みんな、それぞれ正しい
課題は合理的に生まれる。自分の立場から見ると理解不可能な意見も、相手の立場から見ると、筋が通っていることが多い。当人同士は、お互いに「正論」を語っている自覚がある。そのため、お互いのナラティブを共有しない限り、適用課題は解決しない。
3. 私とそれ、の関係
仕事は、スキルを中心とした道具的な関係性で構築される。
コードをかける人がほしいからエンジニアを採用する、といったもの。この傾向が強くなりすぎると「私とあなた」ではなく「私とそれ」の関係になる。つまり、相手を目的達成の道具として扱うようになる。そうなると、相手のナラティブに気づきづらくなる。
わかりあえなさの解消
上記の理由から、他者とわかりあうことは難しい。
では、どうすれば、少しでもわかりあえるのか。
結論
対話を通してお互いのナラティブを理解する。
相手の背景を知ると「あー、だから、こんな意見をいうのか」と理解が進む。いままでと異なる関係性が始まる。
対話の基本プロセス
では、対話はどのように進めればいいのか。
1. 準備
自分のナラティブを一旦、脇にどける。
フラットに相手をみる、と意識する。自分の専門領域や立場から考えている間は、相手のナラティブを冷静に判断できない。
2. 観察
相手の立場をじっくり観察する。
どんなプレッシャーがあるのか。どんなことに関心があるのか。周囲はどのような環境なのか。丁寧な観察は、解釈や介入の選択肢を増やす。
3. 解釈
相手の立場になって考えてみる。
相手からはどんな風に自分が見えているのか。相手の立場ならどうしてほしいのか。新しい関係性作るにはどうすればいいか、を相手の立場から考える。
4. 介入
解釈で見つけた解消方法を実践してみる。
ここぞ、というタイミングを狙って実践する。失敗しても気にしない。
失敗したときには、観察ステップに戻って、もう一度、対話を試みる。
対話の事例
では、対話とは具体的にどんなものか。
いくつか事例をあげる。
1. 新規事業の立ち上げ
あるメーカーで新規事業が企画された。しかし、他部署からの反発が発生した。
既存事業部の意見
新規事業は重要だが、結果の不確定な施策にリソースを割く理由がわからない
対策
人材育成やアイデア検証など、既存事業部にとってもメリットのある施策案を打ち出した。
対話的アプローチ
新規事業部が既存事業部のナラティブを理解するため、積極的に「観察」した。新規事業の必要性を一方的に説く、ではなく、既存事業部の困りごとを解消するには、という視点を新規事業部に加えた。
2. 部門間対立の例
営業部の契約に問題が多発し、法務部と対立した。
法務部の意見
営業は不備のある契約ばかり受注する。後始末が大変だ。
対策
営業配属前に法務部で研修をしてもらう。
対話的アプローチ
厳しいルールで営業部を縛る、ではなく、法務部の仕事を体験してもらう、というアプローチ。研修を通し、法務部のナラティブを自然と営業担当が理解できるように促した。「ルールを守らない営業が悪い」という風には考えず、お互いを理解するには、で考えた。
適応課題のパターン
先述の事例のように、対話に特定の答えはない。適応課題の原因は環境に依存するからだ。それでも、適応課題は大きく 4 つのパターンにわけられる。
1. ギャップ型
大切にしている価値観と行動にギャップがあるケース。
たとえば
男女平等な組織にしたいが、現状は、男性中心の組織で成果もでている。
男女平等という長期的ゴールのために、短期的な合理性を犠牲にする必要があり、行動しづらい。
2. 対立型
お互いのコミットメントが対立するケース。
たとえば
営業部門は売上をあげたいので、多少無理のある契約も受注する。
法務部門は問題のある契約を指摘する。結果、対立構造が生まれる。
3. 抑圧型
言いにくいことを言わないケース。
たとえば
既存事業の先行きが不安だが、撤退を提案できない。
発言すると損する、立場的に意見できない関係性の場合に発生する。
4. 回避型
課題を別の問題にすり替えるケース。
たとえば
職場で精神疾患を抱える人が多発。ストレス耐性のトレーニングで対処する。
本来は、個人のスキルに依存せず、組織全体の仕組みで解消する、などがある。
対話の罠
対話しているつもりがズレてしまうことがある。対話を阻む罠にもパターンがある。
1. 迎合
相手の意見を尊重してしまい、自分の意見を忘れてしまう。適応課題の解消自体が目的にならないように気をつける。常に「そもそも何がやりたいのか」を意識する。
2. 押し付け
目的意識が強く、主張が強くなりすぎてしまう。たとえば「売上意識をもってほしい」と直接伝えたところで、相手の意識が変わることは少ない。相手のナラティブを理解し、彼らが理解できる形式のコミュニケーションを意識する。特に権力をもつポジションにいる場合は注意。
3. 馴れ合い
対話的アプローチは、当人同士の結束を強くする。しかし、それゆえ、良い関係を維持しようと「抑圧型」の適応課題が発生することが多い。結束したがために、言いたいことが言えなくなる。関係性の維持にこだわりすぎてはいけない。
4. 孤立
対話的なチームは、組織のなかで「特別枠」として認知されることがある。あいつらは特別だ、という感覚は組織を分断する。常にチーム外に対して、対話を試みる。対話の範囲を増やすことを意識。
5. 徒労感
対話的アプローチは万能ではない。解消できない課題も多くある。疲れたときは、休むことも大切。
対話の実践
本書をもとに、対話を実践する心構えを自分なりに書いてみる。
批判ではなく提案
PdM、デザイナーはレビューが多い。No を突き返す批判的レビューは対立構造を生みやすいので注意する。
「そうじゃなくて〜」ではなく「それに加えて〜」というスタンスをとる。
説得ではなく納得
正しい説明だけでは、他者は納得しない。彼らがなぜ反対するのか、より感情的な側面に注目する。正論で押し通していては、対話的なチームは生まれない。
人材ではなく人物
スキルの高い低いだけで他者を評価しない。他者にはそれぞれ感情があり、ナラティブがある。道具的関係性が強すぎると、対話が進まないので注意する。
独創ではなく共創
一人で全部やろうとしない。組織において、適応課題は頻発する。課題意識を共有して、みんなで対話的アプローチを実践する。
部分ではなく中心
チームのメンバーは仕事をこなす歯車ではない。「頭脳」と「手足」の関係にチームを分断しないよう注意する。個々人が主体性を発揮できるよう対話を実践する。
知識より実践
課題の多くはコミュニケーションに起因する。解消できるかどうかは、実践しないとわからない。うまくいくまで、対話の観察〜介入を試みる。
まとめ
適応課題とは
関係性に起因する解決策のあいまいな課題。組織課題の多くは、適応課題。
ナラティブとは
ひとりひとりの立場のこと。それぞれ立場が異なるので、適応課題の解消は難しい。
対話とは
お互いの立場を尊重し、解決方法を探るアプローチのこと。準備、観察、解釈、介入のプロセスがある。
おわりに
他者とはわかりあえない。これを前提に考えるのは良いと思った。良い意味で他者への期待値が下がって、余計なストレスが減りそうに思う。また、本書を通して、他者との関わりでストレスを感じるのは自分だけでない。他の人もそうなんだ、と改めて認識できた。お互いの働きやすさのためにも、事業で成果をあげるためにも、対話的アプローチは常に意識したい。
おわりのおわりに
めちゃくちゃ長文になりました..!
それでも、最後まで読んでくれてありがとうございます!
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それでは、また!