「文化人類学×演劇」脚本シリーズNo.1『トイレ会議』

こんにちは、TELL／てるです。
今回は、「文化人類学×演劇」脚本シリーズ二作目！『トイレ会議』を皆さんとシェアしたいと思います。登場人物は３人で、15分ほどの作品です。

女性が合コンにおいてトイレに立つ。それはずばり、
「会議はテーブル席で起きているんじゃない！トイレで起きてるんだ！」

【登場人物】
早川はるか
宮川綾子
石川さゆり

暗転。
モールの化粧室。夜８時過ぎ。
宮川綾子がトイレに入っている。宮川のトイレから、 トイレットペーパーを巻き取る音。
しまむらの袋を持った早川はるかがトイレに入る。しばらくして、トイレのドアに ぶつかったり、物を落としたりする騒がしい音が聞こえる。着替えをしている様子。

早川　あっ。 （トイレの流水音）

 宮川、トイレから出てきて手を洗い、水しぶきを飛ばす。服の裾で手を拭き、化粧室を出ていく。
石川さゆりが化粧室に入ってきて、トイレへ。
しばらくして、ジャージにハイヒール姿の早川と石川がトイレから出てくる。

早川　あ、お疲れ。
石川　え…
早川　ん？
石川　うん。お疲れ様です。
早川　ねぇ
石川　はい… はい。
早川　合コンってさ、死語なの。
石川　死語だね。
早川　死語か。じゃあ今日のって何なんだろ。
石川　今日のは… 出会いを求めた飲み会。
早川　合コンじゃん。
石川　そうだね。
早川　二次会の場所決まった？
石川　うん。ダーツだって。
早川　ダーツ… いける気がする。
石川　え？
早川　あ、あのさ、
石川　うん？
早川　ハサミ持ってない？
石川　ハサミ？
早川　うん。
石川　ちょっと待って。（女１のジャージについてるタグを見て）九百円。 早川　え。借りたっけ？
石川　いや。
早川　貸したっけ？
石川　… それ。
早川　あ、これ。そう、九百円。
石川　… タグ出てるよ。
早川　うん。だからハサミ。
石川　あぁ… 買ったの？
早川　うん。ここの３階のしまむらで。
石川　いつ？
早川　さっき。
石川　さっき？
早川　うん、さっき。
石川　二次会の場所決めするとき居なかったのはそれか。
早川　しまむら二十時で閉まるから超ダッシュで選んだわ。どう？
石川　（女１の足元を見つつ）いいんじゃない。
早川　でしょ。下はね、五百五十円。
石川　二次会行かないの。
早川　行くよ。
石川　それで？
早川　これで。
石川　それでダーツ？
早川　これでダーツ。
石川　…
早川　何。はっきり言いなよ。
石川　ハサミ… 鼻毛切る用のならあるよ。
早川　さすが。ちょっとこれ切ってくんない。
石川　うん。（石川、早川の服に付いたタグを切る。）

宮川、化粧室に戻ってくる。

宮川　あぁ居た。次のお店席空いてるって。
石川　あぁ。（タグを切る音）
宮川　何してんの。
石川　タグ切ってた。
早川　タグ切ってもらってた。
宮川　うん。じゃなくて。
早川　チクチクするんだよ。
宮川　うん。え、帰るの？
早川　帰らないよ。
宮川　え、二次会は？
石川　行くんだって。ね？
早川　うん。
宮川　それで？
早川　これで。
宮川　ジャージで？
早川　ジャージで。
宮川　靴は？
早川　履いてる。
宮川　分かるよ。じゃなくて、
早川　二十五センチ。
宮川　じゃなくて、
石川　なんでハイヒール？
宮川　そう。
早川　ダメ？
宮川　ダメじゃないけど… さっき着てた服は？
早川　ここ。あ、ニキビ。
宮川　（ビニール袋からワンピースを取り出し）せっかく一緒に選んだじゃ
　　　ん。何、汚した？
早川　いや。
宮川　破けた？
早川　全然。
宮川　似合ってたじゃん。
早川　知らなかった。
宮川　聞いてる？
石川　男ウケ良かったけどね。
早川　二次会終わったら、家帰ってお風呂入ってするめ食って歯磨きして寝
　　　るだけだし。
宮川　絶対こっちの方がいい。
早川　ヒールさえ脱いじゃえば、パジャマ。
石川　大丈夫？
早川　何が。
宮川　合コンだよ。
早川　うん。あ、合コンって今死語らしいよ。
宮川　なんでジャージにハイヒールで二次会に行くんですか。
早川　なんでジャージにハイヒールで二次会に行くのか。攻めの姿勢。
宮川　一歩間違えたらパジャマだよ。
早川　大丈夫、まだその一歩踏み出してないから。スニーカーなら気軽に踏
　　　み出せちゃうけ ど、ハイヒールなら（ヒールを床にさして）踏みとど
　　　まれるから。
宮川　ジャージじゃん。せめてサンダルじゃん。
早川　ヒールだってありじゃん。
宮川　ていうか合コンにジャージはNG じゃん。
早川　なんで。
宮川　なんで。え、聞く。え、それ聞く。え、合コンだよ。え、少しでもい
　　　い印象残したい じゃん。え、てか普通に浮くでしょ、それは。「あ、
　　　きれいめ系ね、あ、かわいい系 ね、あ、ジャージ系ね、センスいい」
　　　ってならないからね、え、なれないからね。
石川　一旦着替えよう。
早川　いいのこれで。
宮川　よくない、よく考えて。今日は合コンです。クリぼっち回避のチャン
　　　スです。
早川　承知してます。
宮川　見事にアイロンがけされた白いブラウス着てる子と、しわっしわの白
　　　いブラウス着 てる子、どっちがモテるでしょうか？
早川　見事なアイロンでしょうね。
宮川　分かってらっしゃる。ヴィトンのロゴ、ドーン、セレブ感、ダーンな
　　　子と、小っちゃ いダイヤモンドのネックレスしてる子だったら？
早川　ちっちゃいダイヤモンド。
宮川　おっしゃる通り。ワンピース着てる子と、ジャージ着てる、
早川　見事なアイロンも、ちっちゃいダイヤモンドもワンピースも、家では
　　　あぐらかいて、 するめ食って、足でエアコンのリモコンとって、足の
　　　裏攣りかけてるよ。
宮川　はい。
早川　合コン定番ファッションとかモテコーデとか失敗しない服選びとか、
　　　そういうの定 義なんか脱ぎ捨てて、パジャマ代わりにジャージ着てる
　　　よ。
石川　（挙手）
宮川　何。
石川　ジェラピケのパジャマ。
宮川　ジェラピケのパジャマは、
早川　ご自由にどうぞ。（トイレを出ていこうとする。）
宮川　今日は一次会で解散にしよう。また今度ダーツ行こう。
石川　ダメ。
宮川　え？
早川　うん、ダメ。
宮川　なんで。
早川　まだ連絡先貰ってない。
石川　え… 誰の？
早川　最初に席ついた時、私から見て一番右に座ってた人。
石川　席替えの時、席替えしなかった人？
早川　うん。
宮川　待って、寿司に醤油の人？
早川　そう。
宮川　（同時に）まじか。
石川　（同時に）まじか。
早川　うん。
石川　あれでしょ、「お寿司を食べる時に、醬油は付けません。」
早川　「なので、醤油皿は要りません。」
宮川　よく覚えてんじゃん。
早川　しかもね、「甘エビとシャリは別々に食べます。」
宮川　（同時に）すごっ。
石川　（同時に）すごっ。
早川　すごいよね。お寿司にお醤油つけなくて、甘エビとシャリ別々に食べ
　　　ちゃって、もう お寿司のアイデンティティガン無視だよ。
石川　確かに。
早川　あと私がさ、
宮川　待って。（スマホを見て）今男性陣たばこタイムです。
石川　オッケー。
早川　そう、通学路の話した時に、
宮川　中学生まで寄り道して帰ったことないって話ね。
早川　寄り道じゃないの、通学路破り。
宮川　何なんだろうね、その罪深く聞こえる言葉。
早川　実際罪だったんだよ、その時の私にとっては。だって通学路を破ると
　　　きのリスクって すごいからね。
石川　例えば？
早川　まず第一に、通学路が一緒の生徒。みんな同じ校則の中で生活してる
　　　からさ、相互監 視のきつい環境じゃん。だから誰かが通学路を破るっ
　　　ていう不正行為を働けば、それ を見た他の誰かが担任の先生に密告す
　　　るんだよ。てなると、通学路を破ろうっていう 目論見すらバレていな
　　　いか油断できない。
宮川　なるほど。
石川　寄り道なんてみんなしてるよ。
早川　そして第二に、登下校を温かく見守ってくださるご近所さん。そもそ
　　　も通学路ってさ、 大人たちが子供たちの安全を守るために規定した道
　　　順でしょ。そんな人たちの前で 通学路なんか破ってみなよ、担任の先
　　　生に密告なんかじゃすまされない。
宮川　PTA ね。
早川　二度と登下校のたびに、「行ってらっしゃい」「おかえんなさい」っ
　　　て言ってくれなく なるよ。
石川　そこまでの信頼は失われないんじゃないか。
早川　そう、で通学路の話したでしょ。 そしたら、お寿司の彼がね、「寄り
　　　道は、冒険なんですよ。」って。「僕なんか友達と 通学路にある駄菓
　　　子屋でお菓子買って、近くの山で遭難ごっことかやってましたよ。」
　　　って。
宮川　山。上級者だ。
石川　いや、常習犯っしょ。
早川　なんかね、いいんだなぁって。通学路破っても。
宮川　山まで行っても？
早川　うん。例えばさ、ハンドソープで顔洗ったっていいんだよ。
宮川　何言ってんの。
石川　（挙手）
宮川　何。
石川　経験者です。
宮川　ハンドソープで洗顔？
石川　洗顔フォーム切らして、買い忘れちゃったときとかあるじゃん。まぁ
　　　いっかって。
早川　あと、ボールペンをかんざしみたいにしてぐるぐるって、髪留めても
　　　いい。
宮川　いや分かる。分かるけど、気になる人の前だよ？いい印象で話かけや
　　　すくして、一緒 においしくご飯食べて、楽しくおしゃべりもしたいじ
　　　ゃん。
早川　うん。もちろんマナーはあるよ。礼儀も、TPO もある。でもなんてい
　　　うか、無理に 女の子っぽくいることないかなって。合理的じゃない方
　　　が面白かったりするんだよ。 だからさ、合コンにジャージをありにし
　　　てみたい。
石川　お寿司の彼にまじかぁって思われるかもよ。
早川　うん。その時は水に流す。
石川　強気だね。
早川　まぁね。でもこっちのほうがウソじゃないから。
石川　そっか。
早川　うん。
宮川　そんな意外な一面みたいなとこ見せるんじゃなくてさ、ちょっとは着
　　　飾ってさ、
石川　トイレ用擬音装置って、
宮川　え？
早川　といれようぎおんそうち？
石川　うん。
早川　あ、音姫。
石川　うん。あれってさ、なんで姫なんだろうね。
宮川　さぁ。
石川　姫がいるなら、王子もいるのかな。
宮川　音王子？
石川　うん。
早川　いてもいいかもね。
石川　いてもいいんだよ。
宮川　何？
石川　音姫ってさ、一つのトイレに二人いるところもあるよね。
早川　ふたり？
石川　うん。一人は、便座に座ると人体を感知して自動的にフラッシュバブ
　　　ル音流してくれ る姫と、もう一人は、「流水音が25 秒間流れ、自動
　　　的に停止します」って書いてある ボタンを押すと、川のせせらぎ音流
　　　してくれる姫。
早川　うん。
石川　意図せず二人同時に音が鳴っちゃうときがある。
早川　うん。
石川　でも音姫がいる家ってあんまりないよね。
宮川　えーっと。これはつまり、
早川　こういう外のお店のトイレには音姫あるけど、自分の家にはないよね
　　　ってこと？
石川　うん。
宮川　音なんて気にしないでしょ。家なんだから。
石川　家でも外でも気にする人は気にするよ。
宮川　しないよ。
石川　だって家でも外でも、クシャミするとき手当てるでしょ、普通。
宮川　それが普通かは分からなくない。
石川　もしかして当てないタイプ？
宮川　当てます。なんなら肩でこうやります。
石川　ふうん。でも映画館で隣の席空いてたら、自分の荷物ちゃっかり置く
　　　タイプでしょ。
宮川　置きません、ちゃっかりなんて置きません。ちゃんと足元にこう… こ
　　　う、こう置きま す。
石川　じゃあインテリアショップのマッサージチェアで長居できるタイプ
　　　だ。
宮川　どうぞお試しくださいって書いてあるじゃん。Try me って書いてある
　　　じゃん。
石川　お試しくださいっては書いてあるけど、おくつろぎくださいとは書い
　　　てないよ。
宮川　おくつろぎくださいとは書いてないけど、快適なくつろぎ時間をあな
　　　たにっては書 いてあるよ。
石川　“お家で”快適な時間をあなたに、でしょ。
宮川　…
石川　お心当たりあるでしょ。
宮川　何が。
石川　そうじゃなくてもいいをクリエイティブしてる瞬間。
宮川　なにそれ。
石川　普通からちょこっとはみ出すみたいな。絶対あるって。
宮川　… 炊飯器スピーカー。
早川　何それ。
宮川　炊飯器にスマホ入れて音楽流すとスピーカー代わりになります。
石川　ありだよ。
宮川　ありだね。
石川　うん。
早川　誰にだってあるんじゃないかな。そういうはみ出してる瞬間。
石川　うん。ハンドソープで洗顔でしょ、炊飯器スピーカーでしょ、詰まる
　　　ところ、
宮川　ジャージで二次会、
早川　行ってもいいでしょ。

―終―