ディズニーとチャップリン エンタメビジネスを生んだ巨人|読書記録
大野さんは、京大出身の映画プロデューサー。日本チャップリン協会会長でもあります。読売TVの『そこまで言って委員会NP』によく出られていて、個人的に好きな方です。
いくつか心に残った箇所があるので、ご紹介します。
兄弟ビジネスという稀有な共通点
チャップリンは4歳上の異父兄シドニーを、ディズニーは8歳上の兄ロイを心から慕っていた。それぞれの子供時代において、シドニーは船のラッパ手として、ロイは銀行員になって、彼らの弟を支えた。後年、二人の兄は有能なビジネスマンとなって、クリエイターの弟と二人三脚でエンターテインメントの世界を拓くことになる。29頁
ビジネスにおいて心置きなく働ける環境は大事だと思わせる文章ではありませんか?
個人的な話になりますが、僕にも弟がいて自分のファッションブランドを立ち上げ奮闘中なので、兄としてしっかり支援できるビジネスマンにならなければいけないと思わせてくれる箇所でした。
笑い飛ばす=反逆精神
チャップリンが『自伝』にて語った言葉が秀逸です。
「矛盾するようだが、コメディーの政策では、悲劇がかえって笑いの精神を刺激してくれる。おそらく、笑い飛ばすという行為が反逆精神を示すからだろう。自然の威力に直面して無力感に襲われたときには、笑い飛ばすしかないのだ」63頁。
「笑い=反逆精神」であることは、風刺など多くの場面で示されてきていますね。最近のお笑いも風刺的表現が多くなっているように思えます。
また、圧倒的な絶望に遭遇した主人公が、思わず笑ってしまうような局面はよく描かれたりします。無力感の表現に笑いを用いるアクションは、観客に強く印象付ける力がありますね。
ビジネス×クリエイティブ
アブ・アイワークスという人物について以下のように述べられています。
ディズニーと別れと再会を繰り返しながら、二人三脚でミッキーマウスをはじめ多くのキャラクターと傑作アニメーション作品を生み出していく。(中略)絵の才能もさることながら社交的な性格の持ち主であるディズニーと、内向的でコミュニケーション能力に乏しいが「完璧な正円が書ける」ほどの卓越した画力のあるアイワークスは理想的なコンビだった。67-68頁。
この話を聞いたときに、真っ先に浮かんだのは、スティーブジョブスとスティーブウォズニアックのアップルコンビでした。彼らも資金調達と開発をそれぞれ分担し行っていました。
このような卓越したビジネスマインドと、クリエイティブスキル、言い換えれば、夢を語る力と夢を実現する力のそれぞれを持つ人材の必要性を感じました。
チャップリン時代のスピンオフ「フィリックス」
(チャップリンのアニメが大ヒットを記録した後、)今度はチャップリン・アニメの中にすでに登場させていた猫のキャラクターを主人公に据えて新シリーズを企画した。それが『フィリックス・ザ・キャット』だ。75頁。
この話は知らなくて、衝撃を受けました。なんせ駄菓子屋に売っている風船ガムのキャラクターだと思っていたからです(笑)
チャップリンの喜劇王のイメージをそのままアニメキャラに流用する手法はとても先鋭的に感じます。これは広告手法として今も使ったら効果がありそうに思えます。
チャップリンとミッキーの共通点
批評の目的ではあるが、これ以上の内容の引用は著者の不利益になりかねないので、これで最後としたいと思います。
共通する特徴といえば、普遍的に変わらないイメージにして、どんなものにも変わることができるキャラクター、つまりは<常に不変で、常に可変>であるということだ。(中略)ディズニーとチャップリンが類まれであるのは、幅広い大衆と知識エリート層の双方を楽しませたことだ。115-119頁。
常に不変で、常に可変。この言葉にキャラ制作の神髄が詰まっています。ストーリーに登場するキャラとして、様々な役どころを演じることが必要な一方で、人格上の共通点を設けることが重要ということです。
能楽の世阿弥の『風姿花伝』の中の二つの花を彷彿とさせます。ストーリーごとに変わり得る、つまりは失われる「時分の花」と、人格上変わらない、役者自身が体得する真実の魅力「真の花」であります。
真の花たる魅力は、あらゆる人々を魅了することができたのでしょう。
近年は見た目によってキャラが固定されることが多く、彼らのように様々な役を演じることができるキャラクターは少ないです。
まとめ
ここまで読んでいただきありがとうございました。
著書内では、さらにディズニーやチャップリンの特徴は数多く挙げられ、世界的なキャラが生み出された歴史も事細かに掲載されています。コンテンツビジネスを学ぶ方をはじめ、勿論ディズニーやチャップリンが好きな方にもおすすめの一冊です。
ぜひ読んでみてください。
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