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【目下 製作中!】装飾パーツは獣の香を放つ 

 例年にも増して花粉が飛散している今春。
 20余年前から花粉アレルギーを発症してしまった僕は、年度末を無事にやり過ごすために、2月初旬から内科と眼科で薬を処方してもらっています。とは言え、花粉シーズン真っ盛りにもなれば、投薬で構築したマジノラインは早々に突破され、大なり小なりの症状が発現するといった始末。然るに、憤懣やるかたない思いを胸に春を過ごすことになると … 。

 この不条理を何とかできないものかと、長きに渡って思案してきましたが、そもそも花粉が飛ぼうが飛ばまいが、建築現場に赴けば数多の塵埃を浴び、アトリエに戻れば木屑とつのの粉にまみれるといった具合だから、なんともはや仕様がありません(トホホ)。
 僕の人生は ” 埃まみれ ” なのだと観念しているところです。

1:鹿の角

 過日、根付の装飾に使う鹿角しかつのの段取りをしました。
 この鹿角は、10年来の知己である北海道のアングラーT氏が、釣行先の渓流で拾ってきてくれたものです。いわゆる、鹿の落し物って奴ですね。

 この鹿角、品質的にはかなりバラツキがあります。脆弱な中心部(髄:初期的に血液が通っていた部分)が広範囲に及んでいる場合は、使い方に工夫を要します。まぁ、良くある話ですが ” 当たり外れ ” が存在するということですね。因みに、生え変わる時に落とした角と、死んだ直後に採取した角とでも品質が大きく異なるらしく、後者の方が品質が優れていると聞いた事があります。(※この場合の品質とは、装飾加工の適否が評価軸。)

2:動物の個性を表す角

 ところで、私たち人間は、動物の頭部周辺に備えられた鋭利に突出した硬い部分を一括りにしてつのと呼んでいます。けれども、実際には動物毎に角の様相組成が大きく異なっています。
 この様な差異を知ると、俗に云う「個性」とは、こういう根源的なレベルを指すのではないかと感じてしまいます。

 此度は、せっかく鹿角を俎上にあげたので、僕が使うことが多い角の材質的な点について触れていきましょう。
 鹿の角は、硬い骨組織でできています。「骨」といっても頭蓋骨とは分離しているので抜け落ちるのですね。一方、僕が象嵌ぞうがんで使っている水牛の角は、ケラチン質で出来ています。(牛の仲間は、頭蓋骨から直接突出した骨質がケラチン質で覆われた角を持つ。)ケラチン質と言えば、タンパク質の一種で髪の毛の生育に不可欠な物質としてご存知の方も多いはずです。

 とまれ、微細な加工を施すことを想定すると、硬すぎるのも柔らかすぎるのも厄介なんですよね。まぁ、材質的に均一であることが少ない動物の角ですから、都合良くいくわけもないのですが … 。
 いずれにせよ、こうした人間側のニーズを動物側が理解するわけもなく、僕らは材質の当たり外れに一喜一憂しているというわけです。まったくもって「人間って奴は … 」という感じですよね(苦笑)。

3:鹿角を加工する

 一般的に、硬い物質(高比重・高密度など)を加工すること自体がタフなので、何も鹿角に限ったことではないのですが、これが案外、想像を超える3H1Kな作業(酷くて危険な作業)になるのです。(※実際には、柔らかすぎる物質を加工するのも難易度が高い。)

・埃が酷い + 騒音が酷い + 臭いが酷い(3H )
・加工に使用する刃物・工具が危険(1K )
 ※適切に使えば安全

 このような性質の作業だから、とてもじゃないけれどアトリエ内ではやれたものではないのです。特に、臭気は閉口ものです。一応、本稿の題には「香」なんて言葉を選びましたが、実際には「獣臭」が正しかったりして。
 もっとも、この獣臭に関して言えば、前出の水牛の角も同様です。まぁ、骨にしてもケラチンにしても、相応の熱(切断時に生じる熱)が加わればどんな臭いがするかは容易に想像できると思います。
 
 言葉にはし辛いのですが … 。
 角だけを見れば ” 生命力を失った一物体 ” ではあるけれど、かつては生物に備わっていた大切な体の一部だったわけで、そこは最後の最後まで生物であったことの証をアピールしてくるのだと思うのです。動物の角や骨を加工していると、そんな気持ちにさせられます。

4:薄板へ加工

 此度は、薄板が欲しかったこともあり、あえて髄の範囲が大きい部位から骨質部分(表面側)のみを切り取ることにしました。
 それにしても、まぁ~凄い埃でした。そして臭いも芳ばしかった … 。でも、こうした泥臭さもまた ” 手仕事ならでは ” なのだと考えています。

 この騒音と臭気に満ちた作業によってザックリと切り取った部位を、此度の根付陸前國 春告魚りくぜんのくに はるつげうおの装飾用に仕立てていくわけです。
 装飾用と言っても、象嵌ぞうがんの様なカッチリした納まりではなく、あくまでもザックリと載せるといった程度の装飾パーツですので、精神を削るようなシリアスさはありません。

まだまだ削る

 けれども、造形の隙間から入れ込むためには、1㎜よりも薄くしなければ納まらない箇所もあるので、それなりに集中して手を動かしています。
 この地味~な作業は、これから暫く続きそうです。僕の首肩が壊れるのが先か、老眼の目が役立たずになるのが先か、はたまたガラスの腰が崩壊するのが先になるのか … 戦々恐々の態で作業しております。
 
 追記
 明日19日から3日間、盛岡~陸前高田・大船渡界隈を走り回る予定でおります。久方振りの宿泊を伴う旅(ほぼアッシー&労働奉仕)なので、子どもの様に興奮しています(笑)。

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