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【作品紹介】丸鼠

 いよいよ 年の瀬 が迫ってきました。
 なにしろ『師匠も走る』と言うくらいですから、働き者の皆様もまた独楽鼠こまねずみの様に走り回っておられるのではないでしょうか。

 という事で、こんな時節にぴったりの根付丸鼠まるねずみを御紹介させて頂きましょう。此度は、作者の好きなアングルを中心に、全方向から愛でることができる『根付の愉しみ方』に触れて頂ければ幸いです。

水牛のつので作った大きなまなこ

1:小さな英雄

さて、根付ではお馴染みとなっている『丸鼠』。
とかく、害獣扱いされがちなネズミではありますが、実は『縁起を担ぐ動物』のひとつだったりします。

 分かりやすいところでは『干支の一番手』であることが挙げられるでしょう。これはネズミの賢さや要領の良さが顕著に表れている逸話です。それから、繁殖力が旺盛で子沢山なネズミは、子孫繁栄をイメージさせる動物として語られることも多いですよね。

『逆さ鼠』

 加えて、『大黒天の使い』と云われるネズミは、蓄財を象徴する動物にもなっていますし、古事記では大国主命おおくにぬしのみことを救った動物として描かれています。
 なるほど、最古の哺乳類と言われているだけあって、いにしえより伝わる物語の端々に登場してくるのだから大したものです。

 こうやってネズミを眺めて見ると、人間に害を及ぼす迷惑な動物というよりもむしろ『知略に富んだ英雄』といった印象すら覚えてしまいます。そんなネズミが『驚いて丸くなった瞬間』を見事に捉え、そして根付に彫り上げた先達のセンスには感服するばかりです。

私が一番好きなアングル『考える鼠』

2:丸鼠に込めた願い

 私が彫る丸鼠の特長は、本物のネズミよりも『大きな手足』と『大きな耳』『大きなまなこを持っている点です。

 小型の齧歯類を飼育されている方や観察眼の鋭い方が見れば、拙作が本物とは随分かけ離れているように思われても致し方がありません。けれども、世界的に有名なネズミのキャラクター(ミッキーマウス、マイティーマウス、ジェリーなど)を思い出してみて下さい。
 そうです、皆、耳が大きくて、目もぱっちり(微笑)。
 昭和生まれの私もまた、優れた先人がデフォルメしたネズミ達の雄姿に少なからず影響を受けていたに違いありません。(※手足の大きさは、ネズミの器用な手足を強調したかったから。)

『背中で語る鼠』

 そんな懐かしい思い出は別にしても、私が彫る丸鼠の『大きな耳』と『つぶらな瞳』には『良く聞き 良く見る』という意味を内包しています。

 玉石混合の情報に溢れている昨今、私が言及するまでもなく、自分の耳と目を以て適切に判断することの重要性が高まってきています。
 今作は、そんな混沌とした世の中を無事に生き抜いて欲しいという願いを込めて製作しました。

全方向から愛でることができるのが根付の特長ですね。

3:製作余話

 丸鼠を彫るとあらば「卓球のボールよりも小さく!」を目標に彫り始めるわけですが、此度は材料に恵まれたことが幸いして、これまで作ってきた中で一番小さな丸鼠を彫り上げることができました。(と言っても、僅か数ミリ程度のダウンサイジングなのですが・・・。)

 そもそも、小さければ小さい程、造作が繊細になることもあって、良質な材料(身の詰まった硬い材料)が必要になります。しかし、繊細な彫刻に向いた部位に出くわすことは稀で、良かれと思って選んだ材料を彫り進めているうちに、脆弱な部位や看過し難いひび割れが発現している場合も少なくありません。そんな不都合に出くわした時の落胆と言ったら・・・。

 なにはともあれ、良材に出会える機会が減ってきた昨今なればこそ、これまで以上に『材料との一期一会』を活かす力を身に付けていかねばならないと感じているところです。

 そんなこんなの『山あり谷あり』を経て完成した丸鼠。
 この丸味を帯びた造形をてのひらの上で転がしていると、それまでの悪戦苦闘の道程みちのりもまた、哀楽に満ちた豊かな時間であったことを教えてくれるのです。

 毎度話が長くなりました。
 それでは、『作り手と題材の良き関係』を紡いでいきたいと思わせてくれる丸鼠に感謝しつつ、本稿を締めさせて頂くことにしましょう。
 最後までご一読賜り、有難うございました。

4:ご案内

 興味を持たれた方は、クリーマの方にも遊びに行ってみて下さいませ。

【作品名】
 丸鼠(まるねずみ)
【製作年月】
 令和6年11月完成
【使用材料】
 本体:黄楊(ツゲ:御蔵島産)
 他の素材:水牛の角(目の部分:象嵌+補強で接着剤)
 仕上げ材:染料(ヤシャブシ・茶粉)、イボタ蝋
 付属品:桐箱、手作りクッション、正絹組紐 
【サイズ・長さ】 ※最大部分で計測した凡その寸法 
 本体サイズ:正面から見て 縦 33.5㎜ × 幅 34㎜ × 厚み(奥行き)31㎜

自らの眼で刮目せよ!

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