青の友情

「ん〜どうしようかなぁ」

エレオノール・ジョヴァンナ・ガションことエリーは悩みながら歩いていた。
彼女にしては珍しい表情。その理由は仲間たちとの今朝の会話にあった。

『せっかくだし街を見て来たら?』

ガリアでの記念式典が終わって数日が経った日、つまり今日グレイスからそんなことを言われた。
ネウロイに故郷を追われて数年ぶりに帰って来た自分を気遣ってくれての発言だろう。
その場にいたアイラを含めた他のメンバーもグレイスに同調してくれた。
そのこと自体は嬉しいし、気持ちにも感謝している。
してはいるのだが

「これといって特に行きたいところとか何もないんだよね」

解放されたガリアの街は復興を始めたばかり。
人も店も平和だった以前よりも格段に減っているし、未だネウロイから受けた傷があちらこちらに色濃く残っている。
こんな状況下の街でエリーに何かしたいことがあるかと言うとはっきり言って皆無に等しい。

けれどもせっかく隊長や仲間たちが思いやってくれたのだ。このまますぐに戻ってしまうのもそれはそれで何か違うとも思う。

「ん〜どうしようかな」

何度目になるかわからない悩みを呟くエリーは目的地が決まらないまま歩みを続ける。
ひとまずはどこか食べ物を買える店を見つけてみよう、なんとなくそう思っていたエリーであったがふと自分の足元に目を落としてある異変に気付いた。

「リオ?」

自身の使い魔のリオの姿がなかった。さっきまではしっかりと足元の近くに並んで歩いていたはずが、どうやら周りの景色に気を取られている内に見失ってしまったようだ。

「どこ行っちゃったんだろ?あまり遠くに行ってないといいんだけど」

リオを探すためエリーは辿ってきた道を引き返す。

「リオー、リオー?」

名前を呼びながら探してみるも姿は見えず声も返ってこない。
一体どこに消えてしまったのか。エリーは段々と心配になってきた。
しかしその心配に反してリオはすぐに見つかった。

「あ、いた」

花屋の店の前にリオはいた。付け加えるなら青い服を着た金髪の女性と黒猫の側にいた。

「あなた、このコが見えるのね。ということはあなたも使い魔なのかしら」

金髪の女性ははっきりとリオに視線を合わせて話しかけているようにエリーには見えた。

(あの人、ウィッチなのかな)

精霊であるリオを認識できることからエリーは女性は自分と同じウィッチだと推測する。

「リオ、探したよ。もー黙って離れたらダメだよ」

エリーがそう言いながら近づくとリオは彼女の声に反応して、すぐに女性からエリーの足元に移動する。

「その精霊、貴女の使い魔ですのね。可愛らしい猫ですわね」

リオを抱き抱えたエリーに女性は話しかけた。

「はい。そちらの猫ちゃんも凛々しくて愛くるしいですよ。貴女の使い魔ですよね?」

「ええ、もう長い間側にいる家族のような大切なコですわ」

そう言うと女性はエリーの顔を見て何かに気付いたように口を開ける。

「あら?貴女、もしかしてルミナスウィッチーズの…」

「はい…そうですけど」

ーこの人、どこかで見たような…
答えながらエリーはあちらが自分の顔を知っているように、女性の顔を過去に見たような記憶が気がした。
ただいつどこで見たのかまでは思い出せない。今のように直接面と向かって会ったことはないのは確かだろうが。

「やはりそうでしたの。先日の式典での貴女たちの歌聞きましたわ。とても心に響いた素敵な歌声でした」

「ありがとうございます…その、失礼ですけど貴女は…」

「まだ名前を名乗ってませんでしたね。これは失礼致しました。私はペリーヌ・クロステルマン、ガリア空軍所属のウィッチです」

「エレオノール・ジョヴァンナ・ガションです。私も…一応、ガリアのウィッチです」

「あら、貴女もガリア出身の方ですの?奇遇ですわね。まさかルミナスウィッチーズの、それもガリアのウィッチの方とここでお会いできるだなんて」

(そうだ。思い出した。新聞で見たことある。この人…501部隊の)

ペリーヌ・クロステルマンと自ら名乗った女性をいつどこで見たのかエリーは思い出した。
ガリアが第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』によって解放されたと聞いて彼女たちがどんな人物なのか調べていた時、新聞でストライクウィッチーズの他のウィッチたちと共に彼女の顔写真と名前があった。

「エレオノールさんはこの後時間あります?もしよろしければ少しだけでもお話ししたいのですけれど」

「えっ…は、はい。いいですよ」

「てはこの近くに私のよく知る紅茶のお店があるのでそちらに行きましょうか。こちらですわ」

ペリーヌの案内でエリーは街のある紅茶で店に足を運ぶこととなった。
よく知る店と言っていただけあってペリーヌは店主や店内にいた客と親し気に会話をし、窓際の席へと座ってた。
それからしばらくして頼んだ紅茶がやって来て二人はカップに口を付けた。

「…っん、美味しい」

「お気に召されたかしら?」

「はい。今までで一番美味しいって感じるくらい」

「それはよかったです。後でお店の主人にも伝えておきますわ」

エリーの言葉に気持ち良さそうな顔をしてペリーヌは紅茶を飲む。
ペリーヌの様子を伺いながらエリーはカップを置いて、恐る恐る彼女にあることを訊ねた。

「あ、あのペリーヌさん…ペリーヌさんはあの501、ストライクウィッチーズのウィッチなんですよね?」

「ええ」

「私のことどう思ってますか?」

「と言いますと?」

「ペリーヌさんみたいに危険な場所で戦ってるウィッチからしたら安全な場所で歌を歌ってるだけの私のことをあまり良く思ってないんじゃないかって、気になってて…」

それはエリーが前々から密かに気にしていた悩みだった。
ガリアがネウロイに襲われた時自分はまだ幼く力のない子どもだった。だが成長して野戦病院で勤務するようになったある日、偶然とはいえリオと契約してウィッチに目覚めた。
その時もまだガリアはネウロイの支配下にあった。
にも関わらず正式な訓練を受けて前線に赴かず、ルミナスウィッチーズとして歌う自分を戦うウィッチたちは快く思っていないのではないか。そんな罪悪感のような思いを持っていた。
特にペリーヌのように同じ故郷を奪われて、故郷を取り戻すために命懸けで戦っているウィッチからすれば。

「そうですわね…正直に申し上げるなら似たようなことを思っていた時はありました。前線に来たのに戦いに来たわけじゃないと言って銃を持つことを拒むような人には腹も立ちましたし、強く当たったりもしましたわ」

ペリーヌはティーカップをテーブルの上に置いて答えた。

「そう、ですよね…」

「ですがそれは過去の話。今は考え方が変わりましたの」

その言葉にエリーは一瞬落としていた視線を上げた。

「私は現在ネウロイとの戦いで両親を失くした子どもたちの面倒を見ているのですけれど、ショックが大きいのかなかなか心を開いてくれず、子どもたちが時折泣き止まなかったり悲しい顔をしたりするんです。私も一緒に手伝ってくれている他のウィッチの方も自分たちなりになんとか元気づけようとしても、どうにもならなくてどうしたらいいのか困っていました。ですがある時泣いていた子どもたちが泣き止んで笑顔になる夜があったんですの。それが数日前のガリア解放の式典があった日の夜のこと」

「それって…」

「ええ、あの時貴女たちの歌声がどうしてか式典会場から離れていた私たちのところまで聞こえてきました」

ガリアの式典の夜、その時のルミナスウィッチーズの歌はジニーとモフィの起こした奇跡によって世界中のたくさんの人と繋がった。
その奇跡の影響はペリーヌのいたところにも届いていたと彼女は言う。

「私たちがどれだけ励ましても暗かったあの子たちの顔が貴女たちの歌声が聞こえて来た瞬間、温かい笑顔になりましたの。それからもずっと笑顔を見せてくれて…だから私は貴女たちに感謝しておりますわ」

それに、とペリーヌは更に言葉を並べる。

「私個人としてもエレオノールさんたちを羨ましいと思っております」

「羨ましい?どうしてです?」

「貴女たちには魅力を語ってくれる方がたくさんいますもの。私もこの数日の間にガリアの方たちと話をする中で感謝を伝えられましたが、貴女たちの歌を聞いて活躍を見た方は『この歌に勇気づけられた』ですとか『あの時の表情がよかった』ですとか一言では終わらず具体的な良さを仰ってるのをこの街でもよく聞きましたわ。一緒に住んでいる子たちも一生懸命に歌詞を覚えて口ずさむ程に夢中になって、こんなにも多くの人の心を動かすなんて戦うウィッチの私たちにはできませんわ」

エリーはペリーヌの言葉に聞き入っていた。
同じウィッチの同じ故郷の人からこんなことを言われたのは初めて。
だからか未だに自分が耳で聞いている内容が現実なのかと思うところがあった。

「ネウロイと戦うウィッチの私たちも人々の前で歌うウィッチのエレオノールさんたちも人々のために活動しているという点においては同じ仲間。活動の内容こそ違うかもしれませんが、違うからこそお互いにできないところを埋め合うことができると思うんです。このガリアのように」

ペリーヌは首を動かし、エリーも吊られて彼女の見ている方角を見る。
崩落した家屋を建て直す人々、幼い子供の手を取って買い物をする母、ネウロイによる侵攻の名残りが色濃く残っている中にあっても街の人々の顔は生き生きとしていた。

「私たちがネウロイを退けて故郷に戻ってきた人たちの心をエレオノールさんたちが元気にする。そんな風にこれからも続けていけるのが理想だと思います。まだ自分の住んでいた国に帰れない人たちがたくさんいますし、このガリアもまだまだ以前の姿に戻ったとは言えません。ガリアも含めて世界中の全ての国の人たちが元の住んでいた場所で笑顔で過ごせるようになるのが今の私の願いです」

そう言うとペリーヌは椅子から立ち上がってエリーの横に立つと手を差し出す。

「ですからエレオノールさん、貴女さえよろしければ私の願いを一緒に叶えてくださるかしら?同じこの世界とガリアを思うウィッチとして…」

「…私もペリーヌさんと同じ願いです。私でよかったらお手伝いさせてください」

エリーは立ち上がって自らに差し伸べられた手を取った。
その瞬間の彼女の表情を見たペリーヌは柔らかく微笑んだ。

「もちろんですわ。共に頑張りましょう。今日貴女と出会えたことに感謝します」




ガリア解放から数ヶ月程経った日。
ルミナスウィッチーズの面々はブリタニアのホールにいた。

「うわぁ、もうお客さんがこんなにたくさんいる…」

「いつもよりもだいぶ人集まるの早くないか?こりゃあ一層気合い入れねえとだな」

この日はブリタニアのある大きな会場でのライブ。
舞台の袖口からいのりとジョーが来場者にバレないようにこっそりと顔を出して、観客席の様子を確認する。
ブリタニアでライブを開催するとの告知は一か月程前から行っていたが、予想よりも早い段階から観客が集まっている。
それほどまでに自分たちへの期待値が高まっているのだと思うといのりもジョーも緊張してしまう。

「マリアちゃん、ここのパートってストライカーの速度って少し弱めるんだよね」

「その通りなのです。そうすることによって曲のメインであるシルヴィとジョーの二人がお客さんから目立って見えるので」

「ねーアイラ。マナの帽子知らない?」

「昨日まではあっただろう。まさか泊まっていたホテルに忘れてきたのか?」

「あ!いた!マナ、帽子。乗ってきた車の中に置き忘れてたわよ」

二人が楽屋へ戻ると他のメンバーが着々と本番に向けて動き出していた。
曲の演出を確認し合うジニーとマリア、自分の帽子の行方がわからずアイラに訊ねるマナ、楽屋の扉を開けてマナの帽子を持って来たシルヴィ。
そして

「そういえば今日ってラジオ放送もするのよね?初めてじゃない?なんでかしら」

「私に聞かれてもわかんないよ。でもいいんじゃない?会場に来れない人たちのところにも私たちの歌が届くって思ったら」

「それはそうね」

ガリアの式典の際に披露した白い衣装に着替えるミラーシャとエリー。
ルミナスウィッチーズの全員揃って準備が完了し、後は開始時間を待つだけとなった。
その時楽屋の扉を開けてグレイスが入室してくる。

「皆、皆にとってもいい物が届いてるわよ」

「「とってもいいもの?」」

グレイスの発言に一人の漏れなく首を傾げるアイラたち。
グレイスの後に付いていくと会場の出入り口付近で待っていたのは

「「うわあああ〜!!」

それぞれのメンバーのカラーの祝い花であった。
目にした瞬間ジニーたちは歓喜のこもった声をあげた。

「すごぉい!マナたちの色の花だ!」

「どれも全部貴女たちのファンの人たちからよ。さっき運んで来てくれた運転手の人が言ってたわ」

「わざわざこの日のために準備してくれたのかしら」

「手紙だって届いてるのよ。ほら、ここに」

続いてグレイスが手で示した先には机の上に並べられた複数の箱。
箱の一つ一つにメンバーの名前が書かれた札があり、中には手紙が数多く入っていた。

「これも私たちに?」

「そうよ。これは全部ガリアからの手紙みたい」

「本当だ。手紙の後ろの名前ガリアの言葉で書いてある」

「文字の感じを見るに子供からも来ているみたいだ。まだ字を書くのにも慣れてない小さな子も私たちの歌を聞いてくれているんだな」

ミラーシャ、エリー、アイラが自分たちに宛てられた手紙を手に取って各々感想を呟く。
多くある手紙の数枚をエリーは封を開けて読んでみる。
一つ目はアイラの言うように小さな子どもからと思われる手紙。言葉が拙いながらも大きな気持ちを感じられた。
そして二つ目は

「あれ…この手紙の文字、これは扶桑からかな?いのり、ちょっと来てもらっていい?」

「なんですかエリーさん?」

エリーに呼ばれていのりは水色の祝い花の側から彼女の近くへと移動した。

「この文字って扶桑のだよね?代わりに読んで貰っていいかな?」

「そうですね…わかりました。えっと」

エリーから手紙を預かっていのりは手紙の文面を読み上げる。

「『エレオノール・ジョヴァンナ・ガション様へ
拝啓 エリー様におかれましては、ますますご健勝にてご活躍のことと存じます。
私はルミナスウヰッチーズの歌に日々元気を貰っています。
特にエリーさんの声が大好きです。
またステージであなたの姿を見れることを楽しみにしております。
日々の訓練は大変かと思われますが体調に気をつけて頑張って下さい。私も頑張ります。
ルミナスウヰッチーズ、エリーさんのご健勝、ご多幸をお祈り申し上げます。
敬具』…これで終わりですね」

「扶桑の人からもこんな気持ちのこもったあったかい手紙を貰えるなんて嬉しいなぁ。またステージで、ってことは前にライブに来てくれた人なのかな?」

「その可能性はあると思います。しかしどうして扶桑の方の手紙がガリアからの手紙と一緒に入っていたのか…そこが気になるのです」

「ひょっとしたら色々な国を旅行してる人でガリアからの手紙に混ざってたのも、その時たまたまガリアにいて現地の人と一緒に書いたからかも」

「そう考えたら驚きだよなぁ。私たちの歌がきっかけでたくさんの国の人が繋がるなんて」

いつの間にかマリアとジョーも側に来ていて扶桑からの手紙への意見をいのりと共に述べた。
彼女たち、特にジョーの意見には同感しつつエリーはまた別の手紙を取った。

「…ぁ」

手紙の裏側に書かれていた名前を見てエリーは表情を変えた。
封を切って中身を空けて、手紙に書かれている文章に目を通した。

『この度のブリタニアでのライブの開催おめでとうございます。会場に足を運べないのは残念ですが、遠い空からルミナスウィッチーズの皆様とエリーさんの成功を願っております。
どうかお怪我などなさらぬようにお体にお気をつけください
ペリーヌ・クロステルマン』

文章を最後まで読み終えたエリーは笑みを浮かべていた。
彼女の表情に気付いたジニーが声をかける。

「エリーさん、すごく嬉しそうですね」

「うん。すっごく嬉しいよ。大事な友達からの手紙だからね」

「お友達、ですか?」

「会ったのはまだほんの少ししかないけど。とても立派で尊敬する人なんだ」

「そうなんですか。エリーさんのお友達、私も会ってみたいです」

「会えると思うよ。その時が来たらジニーにも紹介するね。きっとジニーもその人のこと好きになるはずだから」

「はい!楽しみにしてます」

元気よく答えてにこやかに笑うジニー。エリーもまた彼女と同じくらいに晴れやかな笑顔を見せた。
そしていよいよライブの開催時間が近づいた。
関係者以外には誰もいない場所でルミナスウィッチーズは円を組む。

「皆今日来てくれたお客様のため、そしてラジオを聞いてくれている人たちのためにもこれまで培ってきたこと全てを活かしたパフォーマンスを魅せよう。そして今日のライブの成功をまた次のライブに繋げるんだ」

「もちろん自分たちが心から楽しむことも忘れずにね。ある意味そこが一番だから」

「ああ、その通りだな。今回も私たちもお客様も心の底から楽しめるようなライブにしよう」

アイラとエリーの言葉に他のメンバーは頷く。
その反応に満足したアイラは「よし」と呟くと、自分の片手を前に出す。
他のメンバーも次々と続きに手を中央で重ねていき、最後にエリーが手を出した。
全員が左右に目を向け視線を交わし、お互いの気持ちを確かめ合う。

「せーの、ルミナスウィッチーズ…」

「「「テーイクオーフ!!!」」」



「なんで今日に限ってツンツンメガネも一緒なんだよ〜」

「しつこいですわよ。もう何度目ですのその発言」

「だってお前が夜間哨戒なんて初めてじゃないか。なんで急に夜間哨戒なんてする気になったんだよ」

「初めてだからこそ経験を積もうと思っただけのことですわ。ミーナ隊長からも許可は貰ってますし、エイラさんに何も文句を言われる筋合いはないと思いますけど」

「私はペリーヌさんと一緒に空飛べるの珍しいから嬉しいです」

ブリタニアから遠く離れた空。星々の光る夜空を飛行する三人のウィッチがいた。
エイラ・イルマタル・ユーティライネンとペリーヌ、そしてサーニャ・V・リトヴャク。
三人ともストライクウィッチーズに所属するウィッチだ。
共に数多くの苦難を乗り越えてきた仲間であり、深く強い絆で結ばれた仲であるのだが、その仲間の一人であるペリーヌにエイラは少々不満気な顔をしていた。
せっかく二人きりの夜間哨戒だったはずなのに出発間際になってペリーヌも同行してきたのが原因だ。

「ペリーヌさん、そろそろですよね?」

「そうですわね。サーニャさん、お願いできます?」

「少し待ってください」

腕時計を付けたペリーヌに確認を取ったサーニャは魔導針を光らせて、自身のナイトウィッチの能力を使う。

「何してるんだ?」

「ラジオを受信して貰ってるんです」

「ラジオ?なんでまた」

サーニャがラジオの音を拾うのはエイラにとっては珍しくないことだ。
しかし自分の知らぬ間にペリーヌと事前に話し合っている。その点が引っかかってエイラの中に疑問が生まれた。

「これでどうですか?」

「…ええ、彼女たちの声がしっかりと聞こえてますわ。ありがとうございますサーニャさん」

「歌?なあ、これって誰の歌なんだよ?」

突然聞こえてきた歌声にエイラはまた困惑する。
しかしペリーヌとサーニャはこの歌声が何なのかわかっている様子。
自分だけ置いてけぼりで二人だけで通じ合っているのが少し気に食わず、エイラは若干強い声色で問い詰めた。

「ルミナスウィッチーズの人たちの歌よエイラ」

「ルミナスウィッチーズ…?ああ、この前サーニャがレコード買ってた」

「彼女たちのライブが今ブリタニアの会場で行われていて、ラジオ放送で流れている電波をサーニャさんの能力で受信して貰っているんです」

「もしかしてペリーヌが今日夜間哨戒の申請したのってこれが理由か?」

「まぁそうですわね。さっき言ったのも理由の一つではありますけど。こことブリタニアとでは距離がかなり離れてるせいで電波が届きませんから。それでサーニャさんにお願いしたら喜んで承諾してくれまして」

「サーニャ、なんで断らなかったんだよ」

「私もルミナスウィッチーズの歌好きだから。ペリーヌさんから話を聞いて私も彼女たちの歌を聞きながら空を飛びたいって思ったの」

ーせっかくサーニャと二人きりの空のはずだったのに
未だに思うところがあるエイラだったが、サーニャにそう言われてしまえばもう何も言えない。
しかしそれはそれとしてエイラはペリーヌに別の質問を投げかけた。

「サーニャはわかったけどペリーヌもそのルミナスウィッチーズのファンなのか?」

「そうですわよ?ファンでもありますし、友人でもありますわ」

「友人?」

「ルミナスウィッチーズの人たちと友達なんですか?ペリーヌさん」

「さすがに全員ではありませんが。素晴らしい友人と言える方は一人いますわ」

「ペリーヌにも友達がいるんだな」

「なんなんですのその言い方!私にだって友達くらいおりますわよ!…全くもう」

尚も突っかかるような言い方をするエイラにペリーヌは不満そうに口を尖らせた。

「どんな人なんですか?」

「とても素晴らしい方ですわ。心も歌も綺麗で美しくて私の誇れる友達です」

「会ってみたいです。私も。ペリーヌさんのお友達に」

「機会がありましたら喜んで紹介しますわよ。サーニャさんも必ず仲良くなれるはずですわ」

そうサーニャに言うとペリーヌは一旦自分の耳に聞こえてくる歌に全神経を集中させる。

(心が安らぐ気持ちのいい歌…エリーさん、いつか貴女たちの歌を直接聞ける時が来るのを楽しみにしておりますわ。お互いに精一杯頑張りましょう。どんなに遠く離れても繋がってるこの空の下で)

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