一月一酒 第21回
初出:月刊ハンガリージャーナル 2006年3月号
Tokaji Szamorodni, 2003 (Sweet)
醸造家:Szepsy István
産地名:Tokaji borvidék
セプシ・イシュトヴァンこそ夢の実現のために全てを賭け、最後まで成し遂げたワイン醸造家です。今やセプシの名は、抜きんでた品質のワインを表すだけではなく、彼を目標とした全ての人たちに、その仕事と自然法則の間でいかに調和して生きるかをも示しています。
セプシ・イシュトヴァンは、かつてトカイ・ワインを有名にした歴史をもつサモロドニというカテゴリーのワインから逃れることはできないと感じ、理解しました。
実際のところトカイの名を広めたのは、アスーではなくサモロドニだったのです。アスーは例えて言えば、氷山の海面上に現れている部分に過ぎず、トカイ・ワインといえば海中の隠れたサモロドニを意味しました。残念ながらその後、サモロドニに対する評価は消し去られてしまいましたが…。
年度ごとに繰り返すことのできない特徴を持ち、サモロドニはアスーとともに車の両輪の一つをなす存在です。トカイ・ワイン地区の色とりどりのワインの世界は、まさに各ワインの持つ豊かさに感謝すべきといえるでしょう。
例えば遅摘みブドウのワインと比較した場合、サモロドニの重要な特徴は発酵過程にあります。遅摘みワインの場合は発酵は一度のサイクルで終了します。そして新鮮さとフルーティーさを保つため、最後には発酵を止めます。
サモロドニの場合は反対に発酵を止めません。その年度の自然にまかせ、酵母が“神の意志”により自ら仕事をやめるまで働かせます。そして醸造過程はさらに続き、発酵後においても、その年のワインの特徴が完成するまで、酵母は一つの役割を果たすのです。
自然の力が働いている内は、人は手を出しません。サモロドニは樽の中での熟成期間も遅摘みワインより長い時間を要し、全ての過程の結果として、繰り返すことのできないその年度のワインだけがもつ、アルコール、糖分、タンニン、酸味の調和をもたらします。
サモロドニの製法はより伝統的なワイン造りに近く、それはテクノロジーによってではなく、何年作であるか、ということに意義があるのです。
このセプシ・サモロドニの最終結果は、貴腐ブドウの特徴をもつ素晴らしい、ピッチャーにあけて飲むことのできる甘口ワインとなりました。付け加えるならば、マスカットを使っていないという点が遅摘みワインと異なり、フルミント種とハールシュレヴェルー種の2つのブドウ品種のみが使われています。
このセプシ・サモロドニ2003は、5プットのアスーと同等のカテゴリーに収まります。製法の違いによりアスーと区別されるのです。
この甘口サモロドニは堂々とセプシのラベルを身につけることができます。
想像を超えた集中度を持ち、その中にはトロピカル・フルーツ、ピーナツ、ミルクコーヒーなどの味が感じられる、たいへん飲みやすいワインです。
一つ一つの特徴がセプシの品質保証を持たないワインよりも高いレベルに達しています。品質でいえばセプシ・キューヴィーと同じカテゴリーに並べることができるでしょう。
アルコール度数:13.5%、リッター辺り142グラムの糖分を含むというデータも5プット・アスーと一致します。
セプシ・イシュトヴァンは、このワインにおいても“世界記録保持者”としての成功を収めたのは確実といえるでしょう。
このワインに相応しい甘いデザートとともにデザート・ワインとして、あるいはフォアグラ他のパテとともに食前酒としておすすめします。
原文:Kindl Róbert
画像・訳文:高久圭二郎
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