写真製版 アナログレタッチ(ドットエッチング)
先日レタッチの集版作業の工程を書きました。あくまで自分がやってきた方法なので会社によって作業の方法は色々あったと思います。製版会社といってもカラー製版を主にやっていた会社と、モノクロ製版を主体に行なっている会社があり、材料の使い方がかなり違っていたように思います。モノクロ主体の会社での作業はルミラーや遮光マスクをあまり使わないでライトカットや赤紙とかですますとか、多重露光にしないで、ネガをくり抜いて貼り込んだりして材料コストをかなり抑えた作業方法だったと思います。
前回書いた作業を「集版」と書きましたが、集版作業は割と誰でもできました。こう書いてしまえば語弊がありますね。ほつれた髪の毛の切り抜きなどはカッターで切り抜いたりせず、筆を使って手描きしたり、写真点数が多く切り抜きが多かったり複雑な集版はやはり難しかったし時間もかかりました。ただ簡単な集版はできても写真のレタッチをできない人は結構多かったのです。それは現在のDTPのオペレーターでも同じで、編集・出力と画像処理は分業されてたりします。
印刷物に対して実際のフィルムはこんな感じです。
手元に残っているものなのでちょっと。写真の品質もご容赦ください。文字が反対向いているのはビニール素材に印刷するので、裏側から見て正常に読めるようにするためです。石版とか裏刷りといいます。フィルムを拡大してみると小さなドットが見えます。百均のスマホ用レンズなので精度は良くないですが175線相当、ちょろっと下部に見えている部分が150線です。スクリーンチントとしての無地網が150線が主流だったためです。
リバーサルフィルムやプリントなどの反射原稿は製版用のスキャナーで印刷用に藍(シアン・C)、赤(マゼンタ・M)、黄(イエロー・Y)、墨(ブラック・K)の4色に色分解します。製版経験は長い僕ですが、実は簡単なコピータイプのモノクロスキャナー以外にドラム式スキャナー自体を回した経験がありません。最初の会社では入社した当時はスキャナー自体を置いていませんでした。カラー分解は外注に頼っていました。その後もレタッチ、画像処理、編集、出力として忙しく、中途半端に知識はあっても実務するタイミングがありませんでした。
この業界の人なら誰もが見たことのあるこの人の写真をちょっとお借りします。
4色に分解されたネガがこちらです。
モニターなどない時代、上のような分解されたネガフィルムの網点をみて、写真の仕上がりを想像しなければなりませんでした。当時は「分解されたネガをみて出来上がりが予想できなければ一人前ではない」と言われました。ポジに比べてネガの方が仕上がりのイメージは起こしにくい。人物の肌色とか、色味のはっきりしたものは簡単なほうでしたけれど。ダメと判断したらスキャナーのある会社なら分解をやり直しで済むのかもしれません。(当時はそんなに簡単に撮り直しはしなかったと思いますが)ではどうするかというと、反転作業やフィルム上で網点をコントロールします。当時行なっていた主な作業を「減力」といいます。「減力」とは薬品を使って網点のパーセントを少し減らす作業になります。減力液は酸性の黄色い薬品で2倍程度に薄めて使っていました。そのままでは強すぎてすぐにフィルムがダメになります。具体的には光を透過させない濃度をもったフィルムの黒い部分が、濃度を失って光を通してしまいきちんと網点が再現できなくなってしまいます。(焼き付け参照)反転用のフィルムは露光した部分の境界がフリンジ状でなくきっちり出るのが特徴でしたが、減力液で洗うと網点の濃度が少し落ちて網点の周囲が少しやせ細ります。違っているかもしれませんがフィルムの銀成分を溶かしていたのかも。というのも銀成分が減るにつれ減力できる量も減ったからです。その当時で50%付近の点を10%強なら減力できました。当時のフィルムはフジのVOとかだったと思います。その後新しいタイプ(LとかF?とか)のフィルムが出てきて価格が安くなったけど、銀の含有量が減り減力できる量も少なくなりました。明室で作業するタイプのフィルムでは5%も減力できたでしょうか。一度に処理できなければもう一度反転を繰り返してフィルム濃度を再生します。後で書きますが、反転作業で網点をコントロールしたりもしました。
例えば上女性の顔のシャドウ側のシアンの版量が少し多いなと感じたとします。
反転してポジにしてから、濃度をコントロールしたいところ以外をステージングニスを使って保護しドライヤーなどで乾かします。ニスの原料はなんだったのかわかりません。色が赤いから赤ニスと言ってました。ライトテーブルになった水洗テーブルの上で、減力液でルーペを覗きながら網点を細らせていきます。
2021.08.09追記
上記の減力作業ですが、フィルムのベース面から作業している形になっていますが、実際はフィルムの乳剤面に処理を施すため見た目の絵柄が反転した状態が正しいです。
減力は広い範囲は「ソフパッド」という扁たい脱脂綿を折りたたんで、液を含ませえて全体に軽く擦り洗いします。狭い部分やちょこっと行うときは毛先がナイロン製(多分)の筆を使って行いました。上記のほうれい線の修正などの細かい部分は、ピンホールで使っていた黄軸や黒軸などの細い筆を使いました。減力液にドライウェルを数滴混ぜたり。減力が済むとステージングニスを「トリクレン」で洗い流します。減力液やトリクレンを扱うときは手袋着用が推奨されていましたが、僕は感覚がつかみにくいのと面倒臭いので素手で行なっていました。おかげで手はいつも荒れてました。減力液は版下カメラで撮影した、線画や文字の感光オーバーで細くなってしまったネガの洗い出しにも使いました。「減力液」に対して弱くなったフィルムの肉乗りを補強する「増力剤」(補力)なるものもあったそうですが、僕は使う機会も見る機会もありませんでした。ほぼ銀だったとか?作業後水洗したフィルムは専用のフィルム乾燥機や、自動現像機の乾燥部分に通して乾燥させます。自動現像機の上部には開閉できる蓋があり、水洗部分や乾燥部分から通すことができました。この作業をネガ状態で行えば網点を増やすことができます。
余談ですが、フィルムに含まれていた銀はその当時高く売れました。例えば自動現像機からでる定着液にはフィルムに含まれていた銀が溶け出しています。20リッターのポリタンクで7,000円とか。一時期どこかの富豪が銀を買い占めたとき、世界的に銀が高騰して買取価格も倍くらいになった時期がありました。毎年年末やゴールデンウィーク前にネガフィルムや廃液を業者にまとめて売っていたのですが、まとまると結構な金額になりました。ネガには遮光ベースや透明ベースの方が多くて、キロ単位で買ってくれていた業者の方には申し訳なかったけれど、その売却したお金を社長を含めた従業員で山分けしていて、お正月前にお小遣いができて嬉しかったのを覚えています。遠い昔の話。その後はお金を払って引き取ってもらうようになりました。
網点を増やす作業を反転時に行うこともありました。フィルムには感光する薬品の塗られている膜面(乳剤面)とベース面があります。基本的にネガの膜面と反転フィルムは膜面同士が密着するようにします。フィルムは薄いのですがわずかなベース厚でも光源が拡散して露光部分が広がります。ネガの上にの非常に薄いフィルム(シンベース)を乗せて反転すると全体に濃度が上がります。部分的に調整するときはマスクを作って露光量を増やすことでその部分の網点を増やします。簡単なものなら単純に切り抜いたマスクでできます。または濃度を変えて2種類分解したネガを切り抜き合成して2重露光するとか。
下はMIHO MUSEUMの枝垂れ桜ですがもう少し桜の色を濃くしたいと思います。
反転の前に前準備します。
わかりやすくオーバー目に加工していますが、露光の強さやフィルムを乗せたりすることで減力よりもコントロールできる量は増えます。この作業もポジからネガに反転する際に行うと網点を減らすことができます。スキャナーを持たず分解を外注で行なっていた都合もあって昔はかなり大幅の加工を行っていました。平網のような場合で20%〜30%くらい増減させた経験もあります。網点形状は完全にNGでしたけれど。こんな経験のせいか後にデジタルデータに移行してフォトショップ(ver4から)で加工するようになったとき、それぞれのチャンネル表示で網点の調子や網点%の情報をみないと修正出来ませんでした。出力業務しながら画像修正もしていましたが、モニターの表示はあてにならないし、ケーブルの接触が悪く急に画面が真っ赤になる時がありました(笑)
レタッチはあくまで補正作業で修正を加えれば階調や網点の形は不自然になります。色々修正や加工するよりも、本当ならばきちんと撮影されたリバーサルフィルムを適正にスキャンニングできれば調子の再現や色調は問題なかったはずでした。多くの作業は製版の不備や印刷の具合など、原稿通り再現ができずに手直しをすることが大半です。または原稿の足りないところに少し手を入れて綺麗にみせるお手伝いと言ったところでしょうか。
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