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アナログ製版 ポジフィルムとネガフィルム

先日在版のフィルムからのデータ化ということで、久しぶりにネガ焼き用のフィルムを見た。「ああ、こういうのはもう無くなって知っている人もだんだんいなくなるんだ」と思って少し備忘録的に色々書いておこうかなと思いました。

ネガ刷版用フィルム。遮光マスクにネガフィルムが貼り付けてある。

アナログのフィルム製版時代の製版会社は、カラー写真を主に扱うカラー製版メインの会社と、文字ものや単色や2色や3色の特色の白黒もの(そんな風に呼んでいた)をメインにする会社の2種類があったように思う。自社の外の世界をあまり知らなかった若い頃の自分の昔の記憶なので少し怪しいけれど。数十年前今の印刷通販の大手のG社は前者で、P社は後者だったと記憶しています。それぞれで(と言うより製版会社でそれぞれ独自に作業方法があった)レタッチの集版の仕方も違っていて、カラー製版はポジでのフィルム製版が主で、モノクロ製版ではネガフィルムでの製版が多かったように思う。

そもそもポジとネガって?

ポジ(陽画)はものの見たままの状態で、黒いところは黒く白いところは白く(フィルムでは透明)表現されます。対してネガ(陰画)はポジが白黒反転した状態のもので黒いところが白く(透明)白いところ(色のないところ)が黒くなっています。製版フィルムで図解すると以下のようになります。

本当はもう少し複雑なのだと思いますがざっくりいうと、フィルム材料の支持ベースに、感光することで変化する薬剤を塗布してあります。製版フィルムの場合感光した部分が現像・定着することで黒化します。黒化した面を膜面と呼び、版やフィルムに焼き付ける時には版面と膜面とが密着するようにします。ツヤがあって光沢のある方がベース面で、ツヤのないマット感のある方が膜面です。カッターの先でちょっと削ってみて黒い部分が削れる方が膜面になります。


フィルムの呼び方

「オフネガ」とか「トツネガ」という言葉を知ってる人ももう少ない。これもインターネット上にも残らず忘れ去られていく言葉なんでしょう。ポジの方は実際にはオフポジとかトツポジという呼び方はしないで普通にポジ、膜上ポジとか呼んでいました。

膜面下のポジはポジ刷版、膜面下のネガフィルムはネガ刷版に使用していました。膜面下のネガは他にも印画紙への反転焼き付け用にも使いました。
膜面上のポジは絵柄が膜面から見た状態で正体で、クリアファイルとかビニールやPPフィルムが反転した状態で印刷し、透明の反対面から絵柄を見ると正体になる石版印刷や、シルクスクリーン用のフィルムなどに使います。膜面上のネガも各種加工用のフィルムとして利用されます。
どんな風に露光されるのか実際には見た事がないのですが、膜面と感材面を密着して露光するので、凸版である樹脂版や、亜鉛版、マグネシウム版などの金属版に使用する場合、凸ネガを樹脂版に密着させて露光すると感光した樹脂層が硬化され逆像で感材に残り、ハンコの要領で印刷すると正像になるのだと思います。孔版であるシルクスクリーンは膜面上のポジを使用します。膜面とシルクスクリーンの乳剤面を密着させて露光すると、フィルムの黒い部分でないところが露光されて硬化し、フィルムの黒い部分で隠れていた部分の乳剤を洗い落とすと、逆像でインクが透過する孔が残ります。印刷するときは乳剤面が下になるので正像に戻ります。

ポジフィルム

ネガでの刷版焼き付けで、一枚のフィルムで複数の色数の版を焼くことができて、コストを抑えることができました。

材料をを節約できる

右図のように要らない部分を遮光マスクは赤紙(紙の遮光ベース)で隠すことで、版を焼き分けられました。ポジフィルムでも一枚のフィルムで2版の焼き替えは、2重焼き(2回露光して不要部分を焼き飛ばす)で処理できるけれど、焼き飛ばすためのマスクフィルムが必要で、手間とコスト的にもお得感がないのでほとんどやりませんでした。

ネガフィルムの場合にはコスト節約のためにフィルムの代わりに遮光ベースで代用することもありました。

左上のような特色2色の印刷物

例えば版下を撮影した台紙になるネガフィルムに対して、ゴミやピンホールを消すのに、カラー製版は遮光マスクを使って隠すことが多かったけれど、白黒製版ではライトカットとかブラックといった遮光溶剤で塗り消したり、フィルムの遮光シートでなく、赤紙とよんでいた紙製の遮光紙を使って必要な部分だけくり抜いたりしていた。

ネガのピンホールをライトカットでとめる


実際の隠し用のベースとカッターで切ったトンボ

トンボをカッターで切って作るのが手間だから、トンボ用のネガを用意して一枚ずつ切って貼ったりしました。

角トンボ用のネガフィルム
一つずつ切り離して使う
ポジフィルム用にはシールになったトンボもあった

来年(2025年)にメーカーはもうフィルムの生産を停止すると聞きました。フィルムを出力できる設備や焼ける設備を整えている所はもうほとんどありません。そもそも今印刷会社や製版会社で刷版の出力に関わっている多くの人たちは、フィルム自体も見た事もない人も多いのではないでしょうか。ここに記した事もそういった人たちには全く興味のない話だと思いますが、少しの間でもWEB上に情報をとどめておきたいと思いこの記事を書きました。

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