貞山うそ日記 川崎物語 VOI,4
20XX年 05月01日 (月)
ポポンッとメールが届いた。
僕の書いた記事がまた売れたようである。
飛び上がって踊り狂いたいほどの嬉しさを封じ込め、ニヤリと笑った。
運送物流に関する記事を書いてNOTEと言うプラットホームで販売している。今回売れたのは優良大手に関する記事のようだ。自分の書いた文章がお金として返ってくるのは最高の気分である。決してコスパは良くないが最終的な僕自身の到達地点である物書きへの通過点だとすれば着実に一歩踏み出した感じが気持ちいいのである。
まだ午前中だがビールを飲むことにした。
20XX年 05月02日 (火)
みんなもあるのかな?
僕はたまにある。年に一回くらいのペースで今までに4回ほどこの現象に遭遇している。
今日はスポットの仕事で薬品を積んで走っていた。
軽貨物事業主である僕はマッチングアプリで仕事を受注して、千葉にある工場から薬品を積んで都内に向かっていた。プラスチックのボトルには英語と記号のラベルが貼ってあるがなんの薬品かは全くわからない。僕にとってはどうでもいいことだ。お客さんの指定したチルド帯の温度で指定場所に運べばいい。
到着したのは新橋にある小さく背の高いビル。
台車に商品を積み、薄暗いエントランスの隅にある古ぼけたエレベーターに乗り込んだ。東京新橋とは思えないほど静かだった。人の気配も感じない。
最上階の15階?でエレベーターが止まった。うっすら違和感があった。普通止まる時って「チン!」みたいな音がしないか?なんの音もせずにすうっと止まったのである。確かに「15」の数字を押したはずだが?階数表示はどこも光っていない。
扉が開いた。
吸い込まれるような感覚に本能的に抗った。
正面は壁で左右に通路が伸びている。
薄暗い通路が無機質に見えた。そして寒い。春先の気温が高い日だったはずなのにひどく寒さを感じた。通路の奥は暗くて見えない。
誰もいない通路の先から強い視線を感じた。一人ではない、気がする。複数の視線がエレベーターから降りようとしない僕に集まっているのを感じた。
『どうぞ』
声が聞こえた瞬間に凄まじい悪寒が走った。後頭部からケツの穴まで一瞬で凍りつくような強烈な悪寒だった。
そこで我に返った。肩の上のレキが激しく鳴いている。警告の鳴き声であることはすぐに分かったが、今までその鳴き声に気づかなかった自分に危機感があった。
とにかく目の前の「閉」ボタンを押しまくった。2回押すとキャンセルされるはずだが夢中で押した。とにかく何階でもいいので移動したかった。
開発初期の合成音声ソフトみたいなガサガサと乾いた金属的な声が耳の奥に残っている。何かはわからないが絶対に人ではない声だと断言できる。
ゆっくりと扉が閉まり、体が浮力を感じた。エレベーターの中が明るくなった気がした。上に向かっている。階数表示が15で「チン!」と止まった。
荷下ろし先の会社だった。明るく、人が働いている気配がある。
エナジードリンクを10本一気飲みしたような爆発寸前の鼓動をなんとか抑えつつエレベーターを降りて声を張り上げた。
「貞山運送です。お荷物お持ちしました」
どんな状況でも荷物を届けるのがプロである……
20XX年 05月03日 (水)
昼に起きてレキと戯れた。
守護霊獣であるレキは基本姿が見えない。だが呼べば出てきてくれる。
身体と同じくらい大きな尻尾を振りながらテレビボードの後ろからレキが姿を現した。昨日のようなイレギュラーがなければ基本的に鳴くことはあまりない。
管狐と呼ばれる妖怪らしいが出会った頃から体格は変わっていない。
昨日の出来事を反芻していた。
暗く寒い通路。昨日で4回目だった。大きなフロアの時もあり、ただ暗いだけの空間の時もあった。共通しているのは暗い、寒い、誰もいない、でも強烈な視線を感じることだ。僕は誘われているのかもしれない。なぜ?分かる訳が無い。分かるのは踏み出せば戻ってくることはないってことだけだ。死の匂いだけが色濃く漂う世界。
恐怖はある。だが大したことはない。行かなければいい。対処が可能であることにそこまでの恐怖を感じない。もっと怖い目に何度も会っているので、恐怖を感じるメーターがバカになっているのかもしれない。
怖いことや嫌なことは、楽しい美味しいで中和することにしている。
墨田区立花にある行きつけの美味しいステーキ屋に行くことにした。
夕方からの営業なので、埼玉に住む友人の「石やん」を誘って店前で待ち合わせた。彼は同年代の友人でトラックドライバーをしている。朝が早い分終わりも早い。こんな日に誘うにはうってつけの人物だ。
僕は首都高に乗り都心環状線を避け、湾岸線で店に向かった。なるべく新橋方向には近づきたくなかった。
時刻は17時。開店の時間である。ちょうど向こうから「石やん」の歩く姿が見えた。店の前で二人同時に違和感を覚えた。
ステーキデンジャー立花本店 水曜定休日……
20XX年 05月04日(木)
もし異世界転生するとしたらどうするか?
そんなことを真面目に考えるのが僕である。
製塩や製糖の仕方をネット検索したり、井戸に設置する手押しポンプの原理を完璧に理解して、身近にある竹などの材料で作れるようになっておかねばならない。やることは山積みであるが、なかなか異世界転生の順番が回って来ずおじさんになってしまった。まだワンチャンあるかな?
20XX年 05月05日 (金)
午前中の仕事が終わり、家でゴロゴロしていると荷物が届いた。
よくあることである。
僕は動画配信者としてそれなりに知名度がある。日本全国に知り合いがいると言ってもいい。なので、よく物を貰う。
今日は大阪の友人からだった。
僕の好きな「ミックスジューチュサワー」がたくさん入っていた。踊り狂って嬉しさを表現した。もちろん誰かに見られたら即座にスイス銀行にお金を振り込んでスナイパーを雇わなくてはいけないほどひどい踊りである。僕に踊りの才能はカケラもないらしい。
その他にも美味しいお菓子やクラフトビールなどが入っていた。僕の好みを知っているチョイスに感動してしまった。
こう言ってはなんだが、贈り物にはセンスが如実に出る。
この仕事を始めてからたくさんの人に沢山のプレゼントを頂いたが、稀にセンスのかけらも感じない贈り物を貰う事がある。
アイドル関係のグッズとかエロ関係の道具とか…。
一人暮らしのおじさんにアイドルのクリアファイル、、、
電マとバイブ、、、
一応にこやかにお礼を言うが、、、
マジいらんがな!
20XX年 05月06日 (土)
僕はテレビを観ない。
昔からあんまり好きではなかったが、ここ数年全く見なくなった。
朝のニュースすら観ない。相撲も観ない。地震があって蛍光灯のヒモは見るがテレビは観ない。
別に意地を張って観ない訳ではなく、観たいと思わないのだ。
とにかく名前も知らない芸人さんが大声でうるさいし、予定調和に飽き飽きでもあるし、思想や情報の誘導があからさまで観るに堪えない。
でもウチにはそれなりの大きさのテレビがある。
なぜなのか?
Netflixを見るためではない。大画面で迫力のあるエロ動画を見るためでもない。
家具としての飾り?そんな訳ないのである!
だったらなぜか?
いつか貞子がウチに来てくれると信じて置いている。
あの薄着で四つん這いで若い女が出てきたら、それは中年男性にとっては夢のような話である。
なので、おじさんテレビを所有している。
20XX年 05月07日 (日)
川崎はおかしな街である。
大都市東京とオシャレな横浜に挟まれ、肩身が狭いかといえば意外とそうでもない。人口は150万人を超えており全国6位を誇る。東西に長く東と西では全く違う人種が生活している。誤解を恐れずにいえば、川崎駅より東側の京浜工業地帯は治安が悪い。住んでいる人もガラが悪い。子供たちのイジメも陰湿でタチが悪い。外人や低所得者も多く住んでいるので治安も悪い。
現在、駅前などはきれいに整備されたが、僕が移住してきた25年ぐらい前はまだまだ汚かった。京急川崎駅の辺りなどはまだ人生のフリーランス、ever free先輩たちが路上で焼酎などを飲んでいた。あんなに沢山いたのにみんなどこへ行ったのだろうか?
西口はあんまり開発されておらず閑散としていたし、今のチッタの辺りも雑然としていた。川崎は危ない街だったのにキレイになってしまった。現在のキレイな街の方がいいに決まっている。だが、何か物足りなさを感じる。キレイでつまらない街より、危なくて面白い街を心のどこかで望んでいるのかもしれない。
吹き溜まり。という言葉がある。
僕は川崎こそ、この吹き溜まりにふさわしい街だと感じる。
超有名な事件の指名手配犯も住んでいたし(過去に住んでいたアパートからすぐの場所だったw)割と頻繁に発砲事件もある。
あり得ない人間たちが住み、あり得ない事が起こる。だからこそ面白いし、僕のような社会不適合者でもなんとかやっていける。仕事もあるし、人脈も作れる。
大袈裟にいえば僕は川崎に救われたと言っていいのかもしれない。
こんな汚くて危ない川崎が大好きだ。
20XX年 05月08日 (月)
若槻千夏と手を繋いでる夢を見た。
20XX年 05月09日 (火)
日記とはとても困った物である。
基本的に面白いことなんて日常的に起こる物ではなし、忙しい日は家にいないことも多々あるので帰ってまとめて書かなくてはいけないし、でもそうすると正確には『日記』とは言えないのではないか? 矛盾、いやこれは哲学と真正面から向き合う恐ろしい書である。
自分以外は読まない前提ではあるが、もし他人が読んだら? なんてことを少し想定して見栄を張ってみたり、自分が急に亡くなってしまった時の遺書がわりになるな? なんてことを少し想定してもう少し見栄をマシマシにしてみたりするのは仕方ないのである。
日記に書きたいが為にお年寄りの荷物を持ってあげたり、転んで泣いている子供を抱きしめてあげたり、若い女性がひったくられた鞄を取り返してきてあげたり、会社が倒産して絶望している男性を励ましてあげたり、野良猫にちゅーるをあげて手懐けたり、宇宙船を直してあげてグレイ型宇宙人に感謝されたり、ドラゴンボールを7つ集めて神龍にドラえもんを貰ったりしたかったが、そんなことはなくいつも通り仕事をして家に帰ってきた。
日記とはとても困った物である。
VOL,4おしまい
月一ペースで出したかったんですが、7月になってしまいました。
12月までは毎月一本のペースで出したいと考えているので今月はもう一本描けるように頑張ります。並行して歴史小説の下調べや資料の読み込みなどやることが沢山あってなかなかダラダラできません。
どっかにドラゴンボール落ちてねーかな?
いつの間にか関東も梅雨入りしてましたね。
気温も安定せず、体調も崩しやすい季節ですので皆様どうぞお身体ご自愛ください。
この後はいつもの某日エピソードですが、夏になるので心霊系の話を考えていましたが、どーしようかな?みなさん興味あります?
いずれにせよ500円支援してくださる生き神様のために面白いエピソードを考えます。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
一応言っときますが、この物語はフィクションです。
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