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つまらない男とつまらない女の話

「普通に彼氏ができて、普通に結婚して、普通に子どもを産んでー」
「結局60点の人生だったなってー」
「それなら今やりたいことをやってー」

向かい合って座る男女の姿。女は机に突っ伏すような形で何か(恐らく男の話す言葉)を書いていることもあり、こちらからはソファにふんぞり返って座る男の正面の姿しか見えない。
二人の関係も目的も分からないが、広い店内の端の席に座る私のところまで、反対の端に座る彼の言葉が不快に響いてきたことだけは事実だ。

「『20代後半の女が言いそうなこと』というテーマでありきたりな文章を考えてみよう」という話題なら納得できる。というかそれ以外は納得できない。
クソにもならないほどつまらない文章であると共に、ぼんやりとした不特定多数の存在を馬鹿にしているとも思える。
ワイヤレスイヤホンの充電が切れていなければ、こんな男の声遮ってやれるのに、と腹が立った。

状況から察するに、概ね向かいに座る女の代わりに男が文章を考えているのだろう。男の口からは流れるように冒頭のような言葉が出てきた。女が書きとめる時間を考慮し、少しゆっくり丁寧に話していることすら不快だった。

私には関係のない話だ。そんなことは分かっている。人間観察なんていうふざけた趣味もない。
誰かの発する言葉を批判する権利なんてないし、誰が何をしていようと否定なんてできないけれど、どうしても私はその女に問いたかった。

お前は何を思っている?

私は自分で書くことも好きだが、誰かの文章を読むことも好きだ。文章でなくても、その人の「仁」が感じられる話をその人自身から聞くのも好きだ。
面白い話とか上手い文章とか、そんなことは求めていない。その人の考えを、言葉を、感情を知りたいのだ。

トイレに行く途中、男とすれ違った。
「あの、普通ってなんすか?普通って悪いですか?」と思わず喧嘩腰になりそうだったがグッと堪えた。一応、常識的な社会人として。

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