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車の中でサンドイッチ

フリクションの替え芯を買いに、在宅勤務の始業前に近所のコンビニへ。
いつも朝食は家にあるものを適当に食べたりしているのだけど、ついでに何か食べるものを買って帰ることにした。少し物色して、サンドイッチの棚の前で急に懐かしさが芽生えて立ち止まってしまった。

営業の仕事をしていた3年半、ほぼ毎日通勤中の車の中で朝食をとっていた。

起きてから家を出るまで、最短10分。
無理やり身体を起こして洗面所へ。顔を洗って歯を磨き、コンタクトを入れる。着替えをして鍵を掴んで駐車場まで駆け下りる。
化粧をする時間があれば良い方で、大抵は車の中に置きっぱなしのメイク道具で行っていた。信号で止まるたびにバックミラーを見ながら、少しずつ進めていく。因みに髪に関しては、人生の大半オールバックのポニーテールなので、櫛一本とヘアゴム一本あれば10秒で完成する。

当然朝食も車の中。
約1時間の通勤中、セブンイレブンとファミリーマートが交互に3軒ずつくらい現れる田舎道だったため、寄り道はし放題。メイク途中のみっともない姿でダッシュで入店し、お決まりの商品を掴んでレジに持っていく。
それが、サンドイッチだった。
運転しながら食べなくてはいけないため、片手で食べることができるのが一番の利点。お米がそれほど好きではないのでおにぎりの選択肢はほぼなく、種類も豊富なためサンドイッチは「車内朝食」をするのに最適だった。
飲み物は冬なら缶のコーンスープ。それ以外は午後の紅茶無糖。コーヒー系、ミルク系は朝摂取するとお腹を壊すので飲めない。

しんどい日々だった。
帰宅するのは早くて22時、日付が変わっていることもしばしば。帰宅して駐車しても、カーナビの小さな画面でぼーっとテレビを見て1時間ほど過ごしていた。
一日働いて、怒られて、落ち込んで。一刻も早く帰って寝たいのに、どうしても身体が動かない。7、8時間後にはまたここに座っているんだな、と思うともうこのまま朝を迎えても良いのでは、という気になってくる。
色々とギリギリのところで車を降りて家に入るため、さすがに車の中で寝たことはないけれど、それくらい生活が崩壊していた。

一度、会社で割とよく喋る先輩に「私家帰っても、しばらく車から降りられないんですよね」と話したら、「なに?『私、鬱です』アピール?」と鼻で笑われてしまった。さすがにこの話は引きます?嘘です、嘘嘘。

寝たんだか寝てないんだか分からない夜を過ごし、翌朝起きて車の中で食べるサンドイッチは一日の中で最も人間らしく過ごせる時間だった。
一番よく行っていたセブンイレブンの店長さんとは、おはようございますと挨拶をして、「もうコーンスープないんだよねえ」「暖かくなってきましたもんね」などと短い会話を交わした。そして、行ってらっしゃいと送り出してくれた。
あの駐車場が変な形だったセブンイレブン、まだあるのかな。店長さん、お元気かな。

今朝、久し振りにコンビニのサンドイッチを食べたらあの頃の景色がフラッシュバックしてちょっと息が苦しくなった。
当然もう車の中ではなく、明るい部屋のテレビの前で食べている。スープも缶でなく、大きめのマグカップに入っている。
毎日三食自炊し、落ち着いて勉強する時間も、好きな本を読む時間もある。人間らしさの極みのような日々。あの頃とは、真逆の日々。

何が正解かなんて分からない。あのときの判断が、あのときの選択が正しかったのかどうかなんて分からない。そもそもどこまで遡れば良いんだ?
全てを糧にすることはできない。全て肯定することもできない。
全ての経験を昇華させることも、きっとできないと思う。
それでも、あの頃の自分も紛れもなく目を逸らすことのできない自分なので。
先輩のことも恨んでないですよ。お元気にしてるかな?

#エッセイ #コラム #わたしのじんせいあれやこれ

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