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【連載小説 短篇予定】美の骨頂⑫一度の注文デそちらの捌きも慮って複数の飲み物を頼むのはおかしいことなのか?

 ある日の仕事帰り、うちは寄り道をしてN馬の焼き鳥やに行きました。

「生ビールふたつと、二階堂のお湯割りを七つください」

 と注文しました。

「たべものは」と聞かれたので、

「とりま炒りません」

 とゆいました。お通しでそれらは飲み干せるからです。おとーしというのがあればの話ですが。

 しかしお通しは運ばれてきて、宮崎か、和歌山か、千葉の地鶏の胡瓜和えでした。

 うちのまえのカウンターに飲み物がここのつ、と、お通しが置かれました。

「変なのみかたしますね」

 と、アルバイトの高校生みたいな娘に言われました。

 はあ?

 ほっとけや、コラ。ガキが。たっくるさりんどや。

 十五分でうちが飲料を消費し、地鶏を食べたところで、また娘っこがきました。

「おのみものは?」

 店にあるぶん全部もってきてちょうだい。と言いたかったのですが、その日はそのまま帰りました。

 くだりの電車は混雑・混迷。

 何という下らない場所なのだろう、と思いました。

 O泉学園でわざと降りて、歩くことにしました。駅前の目についた赤提灯の暖簾をくぐりました。

 この時間に鳴門(なると)、酔っ払いが徐々に増えていました。

「生ビールふたつと、二階堂のお湯割りを七つください」

 というと、店主が、生ビールをついできて、うちのまえに置きました。

「これをのんでから」

 うちは数十秒のうちに飲み干しました。

「生ビールと、二階堂のお湯割りを七つください」

 膀胱はパンパンでしたが、しばらく我慢しました。最高潮に達してから出すべきなのです。ここらへんの塩梅はおかあや、おとうから教わりました。

「飲みっぷりがよい」

 と、店の人やお客さんにゆわれました。

 うちは、見た目はハタチそこそこの、セケンシラズの娘でした。しかし実状は八百年を生きた尼僧、その気韻は喧噪を圧倒し、煮ても焼いても喰えないやうな、熟成肉みたいになっていました。

 股の名をビーフ・ジャーキー。

 全身の化粧も剥がれて、独り歩き。

 武蔵野の林のなかで蹲踞(そんきょ)なり。

 開発を免れた畑と田圃に春の夜。

 見上げれば西の、東京の西のそのさきのもともと京の、行きつ戻りつベルトコンベヤ半月の、野宿も野晒し犬猫や、紀伊半島、当然つづく時代の縦、横の、黒潮、しをやに大橋架かりにけり、

 ら・り・る

 類・腕強、

 わっつぁわんだふるわーるど。

 おい、今年のワールドシリーズはどことどこだよ。そもそも日本シリーズはどことどこなんだよ。

 不機嫌なおとうの声。

 池にしじま。

 着きました。

「あせちゃん、きょうはスパゲチィですよ」

 と取百々子(とりももこ)が言う。

 敷居を跨ぐと、

「おつかれさん」

 とお婆ちゃんが迎えてくれる。抱き締めてくれる。

 本稿つづく


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