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【連載小説 短篇予定】美の骨頂㉘Stop the War of Cats......な行の変化と社会的影響と進化

 猫との戦争は停戦となりました。

 というかそもそもとくに害はなかったのです。「な行」以外は。

 日本語圏ではな行が改められ、「にゃ・に・にゅ・ね・にょ」となりました。な、ぬ、の、が消滅したわけです。これは猫側の一方的な勝利といってもよいでしょう。

 社会構造がすくなからず変化しました。

 たとえば、『君の名は』という作品は、『ちみにょニャは』と変更され、リメイクされました。制作会社やアニメーターがまあまあ儲かりました。

 争いごとがなんとなく減りました。これまでは「なんだてめえ、なめとんのか。殺すぞガキが」と言っていたのが、「にゃんだてめえ、にゃめんにゃよ」になり、なんとなく怒りが半減し、続く「殺すぞガキが」という台詞との均衡がとれなくなったのです。

 この拗音化は「か行」にも転化し、「きゃ・き・きゅ・け・きょ」となり、か、く、こ、がほぼ消滅しました。というわけで、「さっさと金払わんかい、ボケ、カス、アホ」が、「さっさときゃねはらうにゃ」になり、つづく「ボケ、カス、アホ」という罵倒語に続かなくなりました。

 世界中の言語学者たちが「拗音化するセカイ」についての学術書、新書、解説書を執筆・発表し、爆売れしました。

 また、所有についての考え方というか、概念も変わりました。これはコペルニクス的転回といっても過言ではありませんでした。

 たとえば「私のもの」が、「あたちにょもにょ」という具合になり、誰のものなのかようわからなくなりました。

 また、契約書の「甲は乙に権利を委譲し云々」という文面が「きょうはおっつーにけんりをいじょうにゃン……」という風になり、契約の態を為さなくなりました。誰がだれやらわからなくなったわけです。

 漢字というものがどんどん公的な文書から消えていきました。逆土佐日記状態です。

 これは、日本語圏だけでなく、中国も平仮名をゆにゅうし、「おう、あい、にゃー」とゆうヒット曲がちゃいなぽっぷ界を席巻しました。東洋では、平仮名片仮名とハングルが主な書き文字になったのです。

 西洋では相変わらずアルファベット文字を使用していましたが、「ファッキュー」が「ニャッニャー」、「マザファカ」が「ニャニャニャン」になり、「ビッチ」が「ニャッキ」になりました。毒気を抜かれたようになり、パブでの殴り合いが減り、その変わりパブの壁や柱に引っかき傷がふえました。ポリスは暇になり、リフォーム会社が儲かりました。

 ハムラビ法典は「ニャムニャムほう」となり、ムハンマドは「トットコハムタロウ」と名を変えました。ラマダン中は煮干しを齧ることが流行し、日本の技術者というかおばあさんやおじいさんが大量に中東に移住しました。

 なんとなく、前よりも世界が平和になったような感じになりました。

 しかし、これらの変化を苦々しく思っている人たちがいました。いわゆる言語原理主義者たちです。うちのおとうも、そのひとりでした。


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