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sawaakko
【掌編400文字の宇宙】団地の寡(67歳)
朝ごはんはにゅうめんにした。急に食べたくなったからである。
普段は朝は食べない。昼は職場でたべるが、眠くなるので牛乳だけで済ますこともある。夜は、酒をのむ。若い頃のようにはのめないが、それでものめるだけのむ。家にあるだけ飲むので、買う時は量に気をつけなければならない。
二十代後半から三十代の全部、四十代の前半はこんな感じであった。あのころに戻ったのかもしれない。一時期太ったが、体重は減った。病院ではちょうどいいと褒められる。三十以上も年下の、女の医者に。
「あとは煙草ですね」
「先生、残り少ない人生、好きなものをやめたらどれだけ長生きできるの」
「病気になってからはおそいですよ。咳がずっととまらなくなる。みじめですよ」
「はあ」
後光に照らされたレントゲンの写真を見ると、確かに肺に影がある。白いかげ。
ギリシャ以来、こんなにも医学は発展したのかと思うと感慨深い。と同時に、余計なお世話だとも思う。