【掌編400文字の宇宙】諸君、けふもよい仕事をしよう
地表という言葉はもう辞書にしかのっていない。スノードームの三百三階の自室で目覚めて皮膚を剥き、無菌ガスを浴びてまたひふを着た。
三百三階には人間が五千百二十一人生活している。
スノー・ドームの最上階は植物室である。その他哺乳類は三百一階と三百二階、爬虫類は三百階、菌類は地下五十五階、昆虫、その他の虫は四百九十九階と八百九十階に分類されて暮らしている。
鳥類は絶滅した(ほぼ確実)。魚介類は絶滅したとされているがまだ生存している可能性もある、らしい。調査は続いている。
私は「大悲」という漢語のバッジを左胸に装着した。これは人間の長が付ける。
五百五十五階に上がった。
「おはようございます。JJ」とメイ・アイ(庶務ロボット、見た目は猫科そっくり)が言った。
「おはようございます」
大広間に出ると、無数の機械たちが働いている。
「諸君、きょうもいい仕事をしよう」
「あきらめない」
と機械たちが唱和した。
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