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【掌編400文字の宇宙】フィリピンの鉄火場で全財産をすった元生命保険会社の部長

 90年代の後半、私は学生で居酒屋のバイトしていた。

 居酒屋というのは様々な客が来るので退屈はしない。しかし私は肉体労働には向いていないので忙しくなると露骨に顔で出た。二十人程のヤクザの団体客が来た時、料理が落ち着いて一段落して、酒を運んで「どうぞごゆっくり」と言うと、「何や兄ちゃん愛想よくできるやないか」とドスの利いた声で言われた。間一髪であった。

 五十がらみの常連客がいて、日雇い風だが、どこか品があった。

 数人のスーツ姿のサラリーマンが店に入ってきて、この独り客に挨拶をした。少し世間話をしていた。

 常連客が帰ってから、スーツ組(S生命)は、部長も大変だ。早期退職して移住したのに。という話をした。

 常連なのでしばらくしてまた独りで店に来た。その時聞いた話では、一生食うに困らない金を持ってフィリピン人の嫁とフィリピンに移住したが、ある夜、カジノでほぼ全財産をすってしまったとのことであった。

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