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【連載小説 短篇予定】美の骨頂㊳Winter will come every Year......千年前も千年後も

 この日(2024年11月18日)は、急に寒くなりました。

 うちは東京・石神井公園の、公園の池の畔の祖父母の豪邸で、伊佐凪子とルーム・シェアをして暮らしており、まだオーエル時代でした。多分。

 公園には猫がたくさんいて、西の方にある、茶店屋の周辺は公園があり、親子連れがたくさんいて、茶店で休んだり、メロンソーダをのんだり、熱燗、缶ビール、おでん、ラーメンうどん、なんとか丼というのが売っていました。この店は『孤独のグルメ』の漫画版にも登場しています。

 この日は、このあとにつづく日本内戦及び世界猫対戦の、はじまりの日だと云われています。

 うちと伊佐凪子は茶店で飲み食いをしていました。うちは熱燗をニ十本、凪子はメロンソーダをのみ、おでんとうどんを食べました。

「あたしさ、思うんだけど、猫って、すごい賢いとおもう」

 と、凪子が言いました。

 茶店の畳の箸に、真っ白な猫が姿勢よく座っていて、目をほそめてそっぽを向いて、しかし耳はしっかりとこちらに向けていました。曇り空。池の面も灰色でした。北風がすーっと店内から池のほうへ吹いていました。風にゆれるメニューの貼り紙。赤と、白。サインペンの黒。文字と値段。

「でね、ものすごく、悪賢いとおもう」

 白猫の耳がピクッとうごきました。

「しろねこちゃん、聞いてるよ」うちは注意をうながすようにいいました。

「うん」

 白猫は池の方の縁側に行き、障子の向こうに消えました。しかし勿論、そこで耳を潜めているのです。あたちたちの正体が気づかれたのかニャと思いながら。

 凪子は黙り、うちもだまりました。風がすーっと。

 赤ちゃんが泣き、お母さんが人前なのに片乳を丸出しにしてそのビーチクをちいさな口に含ませる。そのお姉さんの保育園児は一生懸命に麺を啜っている。ちいさなフォークで。そのくちびるは紅くて、花のみたい。まっしろな丸いほほ。かわいい咀嚼。チラ、とうちと目が合いました。

 四十代ぐらいのサラリーマンがひとりで何かを食べていました。あの人が井之頭五郎なのかな。

 あの作品が描かれたのは1990年代、か80年代の終わりごろか。絵を担当された漫画家さんはすでに鬼籍に入っておられていました。

 うちと凪子はオーエル・トークを続け、仕事の話、原宿に行ったときの話、ラサカ先輩の恋バナ(凪子はラサカ係長が好き)をし、のみ食いして勘定を済ませて帰路につきました。お金はお祖母ちゃんが毎日3万円ずつくれたので、うちらは現金を沢山持っていました。

 店を出て、うちと凪子はびくっと立ち止まりました。

 ずらっと並ぶ猫の目線。すべてのねこたちが、うちらを見ていました。

 そうです。この後の猫のクーデターの原因は「でね、ものすごく、悪賢いとおもう」という、凪子の発言にあったのです。

 要するに、凪子のせいなわけです。このあとの戦い、平和、猫民主主義の跋扈。全部悪いのはこのときの、凪子の発言です。

 ちなみに凪子に責任はありません。悪いのは、このときの言葉と、それを受け取った猫たちの意志。

 どうしてもそうならざるをえなかった、とゆうわけです。 

本稿つづく



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