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【連載小説 中篇予定】愛が生まれた日㊶光を超えるスピードで。だから、今この場所では誰も死んでいない、おそらく今この瞬間は
いねーよ。もう犯人は捕まったんだ。こういうことを言うと偏見かもしれないが十中八九犯人の育った家庭環境は問題を抱えている。親の親、あるいはそのまた親ぐらいからの。どこで切り取ればよいのかわからないカルマもしくはカルマのようなものがずっとつづいているおそらく明治ぐらいから明治というのはろくでもないほんとうにいやもっというと産業革命がわるいだれだよ産業を革命したやつはどこのどいつだバカ野郎いやさらにさらにいうと失地王・ジョンが悪い。
誰だよ、失地王・ジョンて。どちらかというとその名をつけたやつのほうが性格が悪いだろう。まあいい。よくないけど。
雪子とはよく飲みにいった。ふたりで。
居酒屋とか、バーとか。ラーメン屋にも行ったし、天ぷら屋にも。スペインかメキシコ料理やにも行った。あとは、いろいろ。焼肉屋にもいった。近所に天好という天麩羅メインの定食屋があり、そこはおそろしいほどの名店だった。まずうまい。また安い。そしてうまい。老夫婦でやっていて、旦那さんが天ぷらを揚げたり、その他の調理をした。奥さんは不愛想だった。不愛想で、何でも覚えていた。おれと雪子のこともすぐに覚えた。
「お酒よくのむね」
と言われた。おれたちは若かったので、ご飯を食べてからもまだ飲みたがった。順番がちがうと言いたかったのだろう。
なんでもうまかった。が、魚介系がとくにうまい。本当におどろくほどうまいのだ。鯛や鮃の舞い踊りというような店だった。天好は。
あるとき長いこと休業していて、理由は店主の体調不良だった。もしやこのままと思ったが、再びのれんがかけられておれたちはホッとした。そして天丼とかブリカマ定食、春の生姜の天麩羅やキス天などを食べた。ビールや熱燗をのんだ。
ちょっと時間軸が合わないのだが、おれたちの子どもが生まれてからも何度か行った。雪子は授乳中で、食欲が異常にあった。定食を二人前食べた。おれは大食いを見るのが好きなので、みてておもしろかった。息子はようやっと歯がはえたくらいであったが、ブリカマのやわらかい肉を食べた。煮汁もべろべろ舐めた。母親に似て、食いしん坊だな、と思った。
その頃おれたちは隣の駅に引っ越していたが、散歩がてら天好に行くことがあった。ある日、ちょっと時間が経って久しぶりに行ってみると、店ごとなくなっていた。更地である。狐に化かされたようなかんじであった。もう覚えていないが、その日は餃子か何かを食べて、帰った。
本稿つづく