見出し画像

【連載小説 中篇予定】愛が生まれた日④

 直属の先輩のホセ(瀬川保則)が左遷されて、入社して数か月でおれは支社のエース的な立場となった。まだ早いだろうとは思ったが。

「早いとか遅いとかそういうのじゃないから。チャンスがあればそれをつかむことだよ」と支社長は言った。禿げていて、ずっとデスクに座っている。何の仕事をしているのか、おれらにはわからない。

「はあ」

 とおれ。

 ホセ(瀬川保則)がセッティングした婚活パーティーがあり、おれはそのディレクターとなった。要するに責任者である。

 サブは雪美になった。雪美はおれよりもこの業界がずっと長いが、「JJさん、まじ応援してます」と言った。JJというのはおれの呼び名で、仲間や家族はこう呼ぶ。

「ありがとうございます。でも、雪美さんの方がながいから、アドヴァイスおねがいします」

 ミルミルヤレルの婚活パーティーは4×4で行う。男4、女4だ。

 よくわからないが、4という人数がキモらしい。男女、掛ける2で、だから都合8人となる。

 パーティーまであと6日というところ。男の出席者は埋まっていたが、女はまだ一人しかいない。

「足りないんですけど」とおれは支社長に言った。

「女がいないの?」

「はい」

「ゼロなの?」

「いや、ひとりいます」

 ふむふむ。と支社長は頷いた。「だったらさ、あと三人でしょ」

「はい」

「集めようよ。だったらさ。あなたが舵をとらないと。ディレクターなんだから」

「はい」

 婚活パーティーの男の参加費は2万5千円。他社にくらべるとかなり高い。しかしこれは、当社のマッチング度、および女の質の高さに比例している。

 女の参加費は1500円。これは他社にくらべて、高くもなく安くもない。

 あと、三人か。雪美(補助)。

「あなた、出ない? 結婚まだでしょう」

「いやいや、ダメですよ。面割ってます。ホセさんの時も何度か出ましたし。もう無理です。うち、今は性欲も無いし」

「そうか……。友だちとかいないの?」

「こっちにはいないですね。卒業して、みんなバラバラだし。というかうち、元々トーキョーなんですよ。だから向こうにはいるけど」

「ふーん。どうしよう。中止にしようか」

「それはマジだめです。ディレクターでそれやったら。JJさん、風俗とか行かないんすか?」

「え、行かないけど。というかこっち来てまだ日も浅いし」

「そうっすか。ホセさんは切り札で嬢キープしてたっす」

「なるほど」

「難しくかんがえなくていいんですよ」

「うーん。どうしよう」

 おれは由希子のLINEに通話をした。取らない。

 数秒して、由希子からかかってくる。

「もしもし」

「どうした」

「えっと……」

「なに?」

「仕事だいじょうぶ?」

「だいじょうぶだから掛けたんでしょ」


本稿つづく

#連載小説
#愛が生まれた日

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?