【連載小説 中篇予定】愛が生まれた日⑤
「マッチング。それは人と人をつなぐ、神聖な行為です」
入社したその日の研修で、動画を見せられた。ミルミルヤレルの創業ストーリー。創業60年という。しかし会社自体は社長が一代で築いたので、そんなに時間は経ってない。先代(社長の親)からカウントしているのだ。
先代は別に会社を経営していたわけでなく「人と人をつなぐ」のを趣味としている感じ。要するに仲人マニアである。百組以上を結婚させたらしい。名付けた子は約二百人。ふーん。
その「神聖な行為」を引き継いで、社長は会社を起ち上げた。マッチングしたカップルはニ千組以上。当初は子の名付けもやっていたらしいが(有料で)今はもうやってないらしい。ダルくなったんだと思う。
そういう会社で、おれは働いている。
「あのさ」とおれは由希子に事情を説明した。パーティーの日付も言った。
「ふーん」
「由希子、出られない? あなた独身でしょう」
「うん」
「え? 出てくれるの?」
「いいよ」
「えー、ほんと。ありがとう。タスカル。あのう、図々しいんだけど、ほかにも誰か参加できる人知らないかな。ちょっと人数が足りなくて」
「何人?」
「何人でもいいんだけど」
「わかった。ちょっと待って。またレンラクする」
ガチャ。
20分後に電話がきた。もうひとり連れて来るという。
「ほんとにありがとう。由希子、ありがとう」
ガチャ。
これで3人。あと一人だ。というかおれって人を集める才能あるかも。この仕事向いてるかも。
そうだ。一人、いるわ。雪子。おれの妻。こっちに帰って来て、ずっとブラブラしているし、ヒマだろう、どうせ。
「そろった。四人そろった」とおれは雪美に言った。
「すごい。JJさん。はやい」
へへへ。照れ臭かった。
「じゃあうち、プロフィールつくりますんで」
おれは雪美にプロフィールを伝えた。名前、年齢、職業。雪子、29歳、家事手伝い。
由希子、31歳、看護婦。
由希子の連れてくる女の情報がわからないので、由希子に電話して聞いた。ユキノシタ、27歳、市役所勤務。
いいね。なかなかの品ぞろえだ。いいね、おれ。
雪美はピーシーのキーボードをものすごいスピードで叩いて、あっという間にプロフィールを仕上げた。
これで。あとは当日を待つばかり。
おれたちいいコンビだな。という具合に、その日は雪美とやきとり屋で乾杯した。おれが奢った。
本稿つづく
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