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【連載小説 短篇予定】美の骨頂㉙春と秋……2026

 2026年、うちは失業しました。AⅤ業界というのが、ほぼ立ち行かなくなったのです。

 原因は人の性行動の変化です。これまで人間は、年中発情していましたが、この発情期というのがはっきりと、春と秋口にほぼ限定されるようになりました。

 というよりも、前項でお話した現象は、マス・コミを通じてうちたちは知ったのでした。拗音化とかだれが儲かったとか、何となく平和になったとかトットコハムタロウなどというのは情報であり、うちたちの周辺は別にあまり変わっていませんでした。

 うちたちが身に染みて感じたのは、発情期についてのみでした。

 所有の概念についても、うちたちにとってはそもその曖昧なものであり、はっきりいうと邪魔なものなのでした。

 ところで人間は春と秋のそれぞれ3週間ほど、急に発情して騒がしくなりました。10歳ぐらいから27歳ぐらいまでの人たちです。子どもや、30ぐらいになった人らは我関せずという風に過ごしています。

 AⅤというのはもうほんとうに誰も見なくなりました。発情しているのは都合一年で6週間程。さらに10歳~27歳までの人たちなので、見るよりもやるという具合で、そこいらじゅうでヤっていました。子どもや、30ぐらいになった人らは性慾自体を知らない、あるいは忘れ果てているのでした。

 売春という行為が絶滅しました。同時に買春も。

 春の発情期はパン祭り、秋の発情期は紅葉狩りというヴァカンスになりました。学校も会社も、店もロジティクスも政府も県庁も食堂もレストランも
小売業も、各市町村役場も警察も消防も公共交通機関もやすみになりました。唯一、水商売とホテルだけは経営していました。

 いわゆる、無法期間となりましたが、犯罪をおかすものはいませんでした。というよりも精確にゆうと犯罪行為という概念そのものがその期間はないのでした。

 弁護士や司法書士は商売あがったりとなり、全員が水商売に携わりました。

 売春は消えましたがその他の、キャバクラとかガールズ・バー、スナックなどはますます隆盛を極めました。というのも人々は意味もなく酒をのんだりおしゃべりをしたりしたがったからです。

 ホテル業界(ラヴ・ホテル)の需要もうなぎのぼりでした。ひとびとはすぐに眠りたがりました。別にアスファルトの上や公園のベンチでもいいのですが、そこはやっぱり人間なのでベッドで寝たがりました。

 昼夜問わず、どこのホテルも満杯で、相部屋も当たり前でした。

 一体この先どうなってしまうんだろう。うちは途方に暮れながら思いました。



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