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【連載小説 短篇予定】美の骨頂⑱by the way......時事ネタの供給側になるには

 隣では、タンと男、凪子と男がきゃっきゃっと盛り上がっている。

 この、客観的視点がうちには、なぜか備わっていてこれがうちが時事ネタの供給側になれない理由であり原因なのだった。一言すると気合いが入っていない。夢中になれない。没入できずに、ふと我に返る。

 だからたとえば流れる川に入らない、おどらない、うたわない、本気では。溺死もせず風邪もひかず筋肉痛にもならない。まだ、こんなに若いのに。妊娠しない。交わらない。

 手を叩いてわらうなぎちゃん、タン。その様はまるでアレだ。

 ああならないといけない。人間として、動物として。一点を突破してネクスト・ステージにイかないといけないのに。

 それができない。エクスキューズがないとパンツを脱げない。

 考え込むが、その態度がいけない。何にもかんがえてはいけないのだ。過去現在未来をすべて断ちきってこの瞬間におぼれないといけない。

 いけない。いけない。いけないと考えるのがいけない。

 うちは、酔うことができない。異常な肝臓のせいで。

 また、おかあ経由の内臓の強さで落ち込むということがない。まどわない。恋をしたことがない。小さなときに引きつけを起こし、ノロウィルスに感染し、数年に一度は風邪を引くが、殆ど病気をしない。

 感情が落ち着いている。怒らないし、あまり笑わない。かなしいと思ったこともほぼない。泣いたことはあるが、4、5回。

 変だな、とうちは思いました。

 うちはドストエフスキーや翻訳家の一群のように、ギャンブルに魅せられていました。お金が欲しいわけではありません。

 おかねなんてなんとでもなります。うちはゼロという概念を信じていません。有り得ないからです。

 ゼロという和語は、ありません。ないという形容詞はありますが、数詞はないのです。零(霊)というのは漢語です。もしくは呉語。

 日本列島、南西諸島にはゼロは「ない」のであります。

 うちはただ、まだ見えない未来を予想し、そのよそうがどうなるのか見たいのです。あっていたり、まちがっていたりします。どちらにしてもある種の没入、興奮状態に陥ります。

 過去から現在、未来の答え合わせ。この繰り返し。この行為が好きなのです。

 期待と発情、昇天とため息。希死念慮。無念な思い。

 柱にくくりつけられ、まな板のうえの裸のうち。

 Hit me! Kill me!!

 Leave me gamble with hope or Die……

「聞いてる? 吾背子ちゃん」

 われに返って目をぱちぱちとしました。

「うん」

「なんか、つかれてる?」

「うん、あ、はい」

 ハイキンTVは心配そうでした。

「うち、ごめんなさい、帰ります」

 といって千八百八十八円を渡して店を出ました。

 あの二人、大丈夫かな。と思いましたがまあどうにかなるでせう。

 それよりも。

 うちはSuicaで電車を乗り継ぎ、大井競馬場を目指しました。あるいはボート・レース場へ。

 

本稿つづく

 


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