【連載小説 短篇予定】美の骨頂⑤『アキラ』東京2023
おとうはうちのことを負け組で陰キャだと言っていました。
「我が家で陽キャなのはおかあと、猫(♀)だけだ。あのなあ、おまへこのままでは孤独で、暗い、黴のような未来しかないぞ」
一方、学校でうちは陽キャで勝ち組だと思われていました。三者面談でも、
「ちちのうえさん(当時はまだ乳之上でした)はいつも明るくて笑顔で、掃除もよくするし授業でも発言をよくするし、クラスのムード・メーカーです」
と先生は言いました。それを聞いておかあの鼻は高くなっていました。
帰り道、中華料理屋に行きました。回鍋肉とご飯二膳、担担麺(はんぶんこ)、餃子二人前を食べました。
うちがコーラを一本のむ間に、おかあは生ビールを五杯飲みました。
魚の唐揚げの餡かけが運ばれてきました。吐きそうになりながら食べているあいだ、おかあはさらに生ビールを三杯のみました。
歩けなくなったので(おかあが)、整骨院のQさんと美容師のRちゃんが来てはこんでくれました。夫婦喧嘩確実、と思いましたが、さいわいおとうはまだ仕事から帰っていませんでした。
おかあを布団に寝かせ、シャワーを浴びて歯磨きをしました。ぼさーっとしていました。おとうは中々かえってきませんでした。
ところで、石神井(東京)のうちの部屋は、二十畳ありました。広過ぎるので嫌でした。しかし、この家で一番小さいのは二畳の物置、次に二十畳の部屋、その次は三十五畳の部屋でした。
いまおもえば二畳でもよかったのかもしれませんが、うちは二十畳を選択しました。うちの荷物、もってきた本、小物等々を広げても部屋はスカスカでした。
おとうとおかあと、うちの一番のちがいは、うちは不合理なこと、無駄なことが大きらいでした。せますぎる・ひろすぎる、この過ぎるというのがいやなのです。
腹が立つのでこの部屋の真ん中にカーテンレールを設置してカーテンを吊って、半分こにしました。
日曜日、この作業をしているとおばあちゃん(東京の)が来て、
「吾背子ちゃん何してるの?」
と言いました。
うちは事情を説明しました。
「あれ、まあ」とおばあちゃんは口を覆いました。ささささっとどこかに行きました。
半分こが完成して、一息ついているとおばあちゃんがiPadを持って部屋にきました。
「あのねえ、そのねえ。……こんな、まっつぐに部屋を割って、よくない」
「何で?」
「一人部屋をふたつにして、となりにへんなものが棲んだらどうするわけ?」
「へ?」
「河童とか、座敷童とか。まあそれならそれでいいけど、でも鬼にでもすまわれたら困ります」
「はい」
といっておばあちゃんは空間を塞ぐための、何の意味もない置き物をいろいろ薦めてきました。中世の鎧、エジプトの石像、曼荼羅。
「おばあちゃん、うちとカンケーないしそんなもん」
「そう?」
「知らんし」
なら(奈良)ということでおばあちゃんは尚円王の肖像画や、巨大な龍柱などを提案してきました。
「いやもうほんと、いらないから」
「ほほう」
とおばあちゃんは冷徹に言いました。なら今日から、おばあちゃんの部屋で寝起きしなさい。と言いました。
「分かりました」
おばあちゃんの部屋は、五十畳ありました。
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