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【連載小説 中篇予定】愛が生まれた日⑬ロバート
ロバートと話をした日のことはよく覚えている。19歳。台湾人で留学生。うち(ミルミルヤレル)としては珍しい顧客だったので、事前に確認というか、アンケートというか、お前誰?みたいな交渉をしたのである。
事前交渉の、その前の情報収集はホセ(瀬川保則)がやっている。だからおれの手元にはホセの残した文章の情報があった。ちなみにホセ(瀬川保則)というのは、ミルミルヤレルにおけるおれの直属の先輩(かつて)で、先日の婚活パーティー(ウィリアム(42)も参加していた)を開催した際、マッチングがあまりうまくいかなかったので、うまくいかなかったのは時の運というものでそんなに気にすることではないと思うのだが、それが理由なのかはわからないが、女性側の出席者と5P(男の参加者もいて6P、7Pという説もあり)をして、それが発覚して左遷された。
今は東北にいるらしい。というかミルミルヤレルは東北にも支社があるのだ、と思った。どうでもいい話だが、ホセ(瀬川保則)さんは別に悪い人ではなく、どちらかというといい人だったので今でも息災(無事)だといいなと思っている。
それはさておき。
K区まで出て、喫茶店でロバートに会った。ロバートというか「ツァイ(蔡)」である。自分でそう名乗った。
台湾からの留学生。実家はお茶屋をやっている。茶葉を市場に卸して、直接販売もするし、喫茶店も経営しているらしい。台北に3店舗、台中に2店舗あるとのこと。
「それはすごい」とおれ。「あなたは長男ですか」
「はい」
「では、お茶の勉強をしに、日本へ? というかお茶はあなた方のほうがよく知っていると思いますが。日本茶はまた、別ですが」
「いえ、私はあまり、お茶は、わかりません」ツァイ(ロバート)は苦笑した。「私、アニメ好きです。日本の」
「はあ。はいはい」
「日本の文化、すきです」
「ふむふむ」
ツァイ(ロバート)はアニメの話をべらべらと話した。ドラゴンボール。スラムダンク。呪術戦記。なんとか、ガーデン。なんとかかんとか。何となく知ってはいるが、よくわからない。おれにはアニメを見る習慣がない。
蔡明亮(ツァイ・ミンリャン 台湾の映画監督)とかエドワード・ヤン(台湾の映画監督)の『牯嶺街少年殺人事件(クーリンチェしょうねんさつじんじけん)』とか、そういう話もしたかったが、やめた。たぶん知らないだろうと思ったのである。
「私、日本で暮らしたいデス」とツァイ(ロバート)は言った。
ふむふむ。19歳。実家は金持ち。ビジネス的(ミルミルヤレル的)にいって、断る理由はない。
おれは支社長に「問題はありません」と報告した。
本稿つづく