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【連載小説 中篇予定】愛が生まれた日(67)宗教家とその由来と量子力学的な現在性

 

ころす


 とゆきむらは寝言みたいにつぶやいていた。

 ソファに寝かせてから。

「西村さん、おれ、もうどうしていいかわかんないです」とおれ。

「だいじょうぶですよ」

 と西村。流石は医者だと思った。時計を見たが、何時なのかみえなかった。

「朝になればだいじょうぶ」

 と誰かがいった。西村だったのかもしれない。

 別のソファで雪美(ミルミルヤレル助手)が横になって寝ていた。その足元に雪舟(ペドロ 38歳ヤリモク)が地べたに座っていた。

 June(ジューン)がメイ(パパ活女子)の手を握っていた。

 おれはその場にうずくまった。というか座った。雪子が来て、背中をさすってくれた。

 ぜったいに何かがおかしい。

 とおれは思った。

 深夜のそらにパトランプの赤がまだへめぐっている。

 余計なことをしている、おれたちは。

「JJ、病院に移さないといけない。柚木(ユキノシタ・経産婦・帝王切開)さんを」

 と由希子(看護師・同級生)が赤ん坊を抱えながら言った。

「うん」

 雪子の手をつかんで、立ち上がった。

「どうしよう」

「救急車よぼう」

「うん。わーがやるば?」

「おねがい」

 おれは携帯電話のみっつのボタンを押した。

 由希子とおれと、由紀夫(ウィリアムガチ勢42歳)、柚木、赤ん坊は労災病院に居た。

 必要なことは由希子が病院の看護婦と医師に伝えた。

「で」とおれ。

「よかった。ありがとう」

「もういいんだな」

「うん。おつかれさま」

「おまへもな」

「うん」

「わたしはここにいるけど、どうする?」

「もどるわ」

「車よぶ?」

「いい。ちかいでしょ」

 おれは真夜中の港町をあるいた。廃線したせんろ沿いに。

 くしゃみをした。

 見上げると何もなかった。闇。レンガ造りの古い倉庫。左をみるとタワー・マンション。部屋にはまだ、ところどころ灯りがついている。

 対岸には街。

 間には海峡。潮のながれがはやい。のだと思う。

 大きな橋。山。東にいけば関西だ。西にいけば、ずっといけば中国なのかな。

 南西にいけばおれの故郷の島がある。

 南にいけば薩摩。もっと南にいけば、なにもないのか。いや。

 黒潮のもっと向こう。もっともっと向こう。オーストラリア?

 南極。

 ぐるっとへめぐって。なにがあるのか。円の謎。

 宇宙だ。

 宇宙に行かないとおれたちの未来はない。

 そんなことを考えていると駅前に来た。スノー・ガーデンの明かりが見えてきた。


本稿つづく

#連載小説
#愛が生まれた日

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