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【連載小説 中篇予定】愛が生まれた日⑳Sレディースクリニックの合戦

あらすじ
 ユキノシタ(破水)が破水した。婚活パーティの最中に。なぜこんなことが起きたのか。おれが悪い。わるいんだけど自分のところの入院者(S・レディースクリニック<産院>に入院しているユキノシタ)を連れてきた由希子(看護婦)のせいでもある。また、ゆきむら(ユキノシタの旦那)のせいでもある。授乳プレイ、やればいいじゃん。おまえがやりたいといったのだろう。それなのに、自分の嫁が妊娠して、さあやれるというのに、やらない。それどころか家にもろくに帰らない。だからユキノシタは。ゆきむら、一体おまえはどこに居るんだよ。はやく来いよ。雪子(おれの妻)。ツァイ(ロバート、台湾人留学生19歳)。ペドロ(無課金ヤリモカー)。ウィリアム(婚活ガチ勢)。メイ(パパ活女子)。雪美(婚活プロデュース会社、おれも勤務、その助手にして現在ノロ・ウィルス)。えっと、あとは。スノー・ガーデン。今回の婚活パーティーの会場。店には店長と店員。ユキノシタ(破水)のお腹のなかの赤ん坊は出てこない。なぜか。だれにもわからない。こんなに人がいるのに。普通は、三人いれば何でも分かる。しかしわからないから、切る。腹を。切るための道具を取りに行く。外は騒然。何の理由もなく通り魔事件が起きたのだ。起きたらしい。誰だよ。本当に。大メーワク。何でこんなことするの?

あらすじ

 店を出ると、季節の風が吹いてきた。季節は秋。

 対岸のS関。その左、玄界灘の向こうに陽はかたむくがまだ明るい。外は騒然としている。関というのはだいたいさわがしい。静かなときもあるが、平日は静かだが、とはいえ事は関におこる。古くは源平のさいごの合戦もここであった。そのときは不必要に人が死んだし、子どもも死んだ。みながよく覚えていて、謡曲にもなった。

 海流は荒い。いつも荒い。しずかなときは見たことがない。船がよく沈む。沈んだ船をすくうサルベージという商売も成り立つほどよく沈む。

 和布刈(めかり)。対岸には赤間(あかま)。

 S・レディースクリニックの周りは、それこそ蜜にたかる虫たちみたいに人がいる。「入ってはいけない」「近寄るな」「そこどいて」「ここが現場のS・レディースクリニックです。犯人は車を運転し入口に突入……」「犠牲者は多数。すでに死亡者も出ています」「犯人はそのまま病院内に侵入し……」「犯行の動機は……」「これマジでやばいだろ。録画して。おれの(スマホ)充電2だから」「2て」「ぎゃはは」

 おれと由希子は群衆に突っ込んで行った。おれたちには道具が必要だ。切る道具。人間の、妊婦の腹を切る道具が。薬も要る。

 どいてくれ。どけ。どけっ。どけってば。

「だめだ。入ってはいけない」

「ちがうんですよ。おれたちは。あそこに行かなきゃいけないんです。本当にお願いします。おねがいします。ちょっとどけや、おいコラ」

 ピー。警官が笛を鳴らす。

 警官があつまってくる。

「もー」

「JJだまってて。あんたもう後ろにいって」と由希子。「わたしあの病院に勤めている看護婦です」

 由希子はぺらぺら話す。よどみなく事情を話して、警官たちを納得させる。身分証も見せて、信用を証明する。

「わかりました。では、あなただけ」とどこかから来た上級の警官は由希子に言う。「あなただけ入ってもよろしい。しかしまだ犯人は中にいます。おそらく最上階に」

 上級警官は無線ですばやく指示を出している。

「よけいなものには絶対に触れないでください。必要なものだけを取ってください」

 由希子はうなずく。

 物々しく武装した警官4人に囲まれて、由希子は院内に入っていった。

 おれは見てるだけ。

 ヘリの音。照明が上階に集中している。

 煙草が吸いたい。ポケットを探ると煙草がある。ズボンのポケットにはライターもある。くわえて火をつける。一服、二服。うまい。

 吸い終わる。

 由希子はよしろよ。はやく。おそい。おそいおそいおそい。

「あー」

 イライラする。はやくしないと。由希子。はよしろや。

 屋上に照明があつまる。逮捕。という声。

 由希子が入口に姿をあらわす。ついているのは武装警官ひとりだけだ。箱を持っている。こちらに走って来る。

「JJ、行こう。いそいで」

 スノー・ガーデンへの戻り道。走ってくる男とすれ違った。振り返ると男は一直線に病院に向かって駆けていく。

「だめだ。入ってはいけない」

 男は叫んでいる。ざわ、という音。暴行。公務執行妨害。現行犯逮捕。という声。

本稿つづく

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