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【連載小説 中篇予定】愛が生まれた日⑯ゆきむら
「えと、ちょっと失礼します」
と言って通話履歴を見る。いろいろあるが、「ゆきむら」という人との通話が多い。
「あの、こちらがご主人でしょうか」と聞くと、ユキノシタが頷く。
ピポ。通話する。八回コールして、取る。向こうが。
「あ、もしもし」
「はい。え?」
「あのう、わたくしミルミルヤレルの○○○と申します」
「え? あなただれ?」
「ミルミルヤレルの○○○でございます」
「みるみる? え。これ、柚木(ゆき)の電話だよね」
「はい。そうです。あのですね、えっと、いま奥様が破水しまして」
「え。生まれるってこと?あなた病院のひと?」
「はい。あ、いいえ。わたしは、あの、病院のものにかわりましょうか」
「う、うん。はい」
おれは通話口をふさいで由希子(看護婦)を探すが、由希子は厨房であれこれ指示している。
「あ、あのすみません。いまちょっとバタバタしてて。ともかくすぐ来られないでしょうか」
「あ、はい。えっとね。ちょっと……」
今度は向こうが通話口を塞ぐ。ガサガサ音。「あと何分のこってる」とゆきむらの声。それに応えて「ニ十分ぐらい」くぐもった声。
「えーっと、じゃあ四十分ぐらいかな。それぐらいしたら行くから」
「あ、はい。あの、病院の方ではなくですね。もっと駅にちかいスノー・ガーデンというカフェがございまして、そこにいらしてください」
と、全部言うまえに電話は切られてしまった。
?
ゆきむらはナニをしていたのか。あと何分とは?
「ニ十分ぐらい」というくぐもった声。あれは誰だろう。男の、若い男の声だった。
というか場所を全部言ってない。おれはすぐに掛け直したが、今度は何回コールしても取らない。
「テーブルの上に寝かせて」と由希子。
おれとロバート(19歳、台湾人留学生)でユキノシタをテーブルの上に寝かせる。由希子がどこかから持ってきた大きなタオルを折りたたんでユキノシタの腰と尻の下に敷く。由希子のうしろからは湯気のたつ大きな鍋をもった店員、がちゃがちゃとアルコールの入った壜をもった店員が。
「ちょっとみなさん頭のほうに」
と手ぶりをして由希子が命じる。
みなでユキノシタの頭の方、海に向かった窓のほうに移動する。
由希子が下着を脱がせて、足をひらく。
うう、ううう。ううううう。
呻(うめ)き声。
本稿つづく