【連載小説 中篇予定】愛が生まれた日⑭由希子
ニュースのテロップがまた。アラート音もする。
「KKS市M区Sレディースクリニックで通り魔事件。30代男性。救急搬送されたが病院で死亡。負傷者多数」
由希子は中学と高校が同じ。高校はオナ部(同じ部活)だった。といっても男子と女子でわかれていたからいっしょに活動をしたわけではない。
高校を卒業してからは一度も会わなかったが、おれがこっち(妻の実家)に戻って、MバーガーでM野菜バーガーを食べていた時、偶然会った。十三年ぶり。
「JJじゃん」
「あ、えっと、由希子、か」
「ひさしぶり」
というわけで話をした。由希子は看護婦になり、結婚してこの県(妻の出身県)のHというところに居た。離婚して、なんとなくMJに来て、海が見えるので気に入って住むことにして産院に就職した。
とのこと。
「子どもは、できたの? まえの旦那さんと」
「ううん」
「そうか。それはよかった」
「うん。それはよかった」
という話をしたり。高校の時の話。知っている誰とかそれとか、今なにをやっているかとか。意外なやつが出世していたり。気がつくと2時間ぐらい話をしていた。元々気が合うのだこの人とは。
連絡先を交換してその日は別れた。その後も、2回会った。Mバーガーと港ちかくの喫茶店で。妻も連れて会わせようかと思ったが、やめた。字は違うが読みが同じなのだ、二人は、名が。ややこしい、と思った。
由希子は肌の色が黒い。高校の頃は陽に灼けてもっと黒かったが、今でも黒い。というか褐色というか。
由希子が窓辺に駆け寄る。勤務しているSレディースクリニックはここからも見える。大騒ぎになっている。入口が黄色のテープで囲われ、警官、救急隊員、野次馬、報道陣。担架にのせられて運ばれる怪我人(死人?)
「どうしよう」
傍にいったおれの腕を由希子がつかんでくる。
「あれ、もう生まれるのか」
「うん」
うめき声。ユキノシタだ。さっきのかわいらしい声とはちがってドスがきいているというか。男みたいな声。うううう。ううううううううう。うわー。わー。
「ここで生もう」
由希子は厨房の方に行き、湯を沸かしてとか、強い酒はあるかとか指示をしはじめた。
「JJ、旦那さんに連絡とって」
「え、」
「ユキさんの旦那さん。すぐ来るようにって」
「あ、うん」
おれはユキノシタのところに行った。
本稿つづく