花火と手とバケツの水と #シロクマ文芸部
花火と手とバケツの水と人の影。
「だめだめ、触ったらやけどするから」
といってお父さんはおわった花火をバケツに放り込む。じゅ、と音がしてにおいがする。たまらなく愉快である。夜になったけど、ぜんぜんこわくない。むしろたのしい。
やけどとはなんだろう?
ほそい花火だけをもたせてくれる。ぱち、ぱちと花がさく。
「わたしももちたい」と同い年の従姉がいうので大人たちは向こうに行く。
花はどんどんひろがる。枝がわかれてまた枝になり、枝と枝と枝の分かれと分かれがどんどんつながってボールぐらいになる。ほんとうに不思議である。
いつまでも見ていたいが火はおとろえてゆく。枝がなくなり、分かれもなくなって線になる。なんだかつまらない。
やがて線もなくなって、火は玉になる。ぐずぐずいっている。赤い玉。きれいである。これ欲しい、と思う。
なんだか玉が落ちそうなので、左の掌を下にする。だれかに見せようと思う。
ぽとと落ちて。いきなり刺されるような痛みが全身に走る。大声で泣く。
駆け寄ってくる叔父さんたち、家から出てくる母や叔母さんたち。大騒ぎになる。
お父さんが怒られている。
やけどというのが何なのか、分かった。やけどというのは痛い。しかも痛みは翌日も、その翌日も、その翌日の次の日も、結構ながくつづく。
やけどはやがて水ぶくれになる。治るころ、かゆくなる。
花火は見るもので、さわるものではない。