【連載小説 中篇予定】愛が生まれた日㉖闖入者…中絶するな、鯨食うな、神の前で人は平等
その時だった。
がちゃ。
白人の男女が二人、店の中に入ってきた。
「OMG.What's happened?」と女。
「Hi」と男が言った。こっちを見て。
「はい」とおれ。
「一体何が起きているんだい? 私たちは旅行者で(アメリカ語。以下この男女との会話はアメリカ語で行われているが表記は日本語とする)」
「えーと、まあ、いろいろ」
「私はフェラチオ・グッドマン。フェラって呼んでくれ」
男はそう言って握手をしてこようとした。が、おれは手袋をしているので、やめた。
「どうも、ミスター・グッドマン」
「私はクリトリス・ブラック。クリスって呼んでね」と女。
「はい。クリス。コール・ミー・JJ」
「どうもJJ。あら、あなたお医者さんなの?」
「ノー。えーっと。えっと、この人はナースです」と、おれは由希子を紹介した。
「へえ。よろしくね」
「はい」と由希子。
「え、やだ。フェラ、妊婦さんがいるわ」
「え、え、どういうことだ。ここは病院なのかい。カフェだと思って入ってきたんだけど」
「カフェです」
「じゃあなんで。何なんだこの町は。外は大騒ぎだし……」
「JJ、早くしないと(日本語)」
「うん(日本語)」
おれは手袋をたっぷり消毒して、パレットからメス(刃物)を取った。再び。
「なにをするの。あなたたちなにをする気なの?」とクリス。
「ちょっと黙っててください。すわってて」
「でも」
「静かに」
「ソーリー。そうするわ。フェラ、座りましょう」
「うん」
ユキノシタの膨らんだ腹の前に立った。さて。さあ。さあ、でも。これどうやって、どこを切ったらいいんだ?
由希子の顔を見た。由希子は頷く。
いや、うんではなくてさ。どこをどうやって切ったらいいのよ。わかんないよ。
本稿つづく