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【掌編400文字の宇宙】告朔餼羊

子貢、告朔の餼羊を去らんと欲す。子の曰く、賜や、女は其の羊を愛む、我れは其の礼を愛む。

『論語』(金谷治 訳注 ワイド版岩波文庫2001年4月13日第2刷)

 月の初めの日に地域の公民館前で山羊汁がつくられて、ふるまわれる。現在のこの行事は持続が難しくなっている。

 まず物価の高騰。山羊の値が高くなった。そしてその処理。昔の男たちはこの首を切り、生皮を剥ぎ、肉を裁断してのちは女たちが内臓を洗い、肉を一口大に切った。

 この技術は、庶民の間ではうしなわれつつある。できる人がいないので、民間の業者に頼むことになる。そうなると、原料費にくわえ、加工にも経費が加算されることになる。

「もう、これ自体やめたらいいんじゃないすか」と、若手の四郎が言った。「山羊とか、カロリー高いし、臭いし」

「四郎」と耕史さん。「あなたは金の話をするが、いまこのとき、ここに集まる人の顔を見なさい。これより大事なものはないと思うよ」

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