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【連載小説 中篇予定】愛が生まれた日(52)ラップくしゃくしゃ元通り選手権

 メイの子の父親は四国の出身で、道路整備の作業のために島に来ていた。メイの五つ年上である。会った時、メイは中学生だった。

 女になったメイは可愛らしく、吸い込まれるような不思議な瞳をもつ少女で、地元の学校では有名であった。女の先輩にいじめられそうになったが、男たちがこれを守護した。

「あんた、モイ(メイの妹)と結婚するやろうな」

 とメイが言った。幼なじみの男(S)と神社の境内で話をしていた。

「あんなガキ」

「今はそうやけど、もう毛も生えとるよ。見たやろ」

「うん」

 その年の夏のおわり、お盆の頃、メイとモイとSは三人で海に行った。メイとモイは水着でSは釣り竿を持って行った。島なので海は歩いてすぐだった。

 遊泳スペースは網で囲まれていた。毒海月とか鮫が入ってこないように。

 Sは別の場所の、突堤で釣りをしていた。

「Sちゃん」

 とモイの声がした。振り向くと。

 モイが水着の肩ひもをはずして、むりむりというようずり下ろしてに全裸になった。

「え。何しよん、おまへ」

「暑いけ」

 と言ってモイは突堤から海に飛び込んだ。潜って浮かび上がり、

「見るな、スケベ」

 と言った。

 何やコイツ、とSは思った。

「あ。」

 とモイの動きが変になった。水中にゆっくり沈む感じ。必死に天を向いているがその顔もみずに浸かって、浮いて、またつかった。手が飛沫をかいている。

「おい。」

 Sはサンダルを脱いで飛び込んだ。背後からモイを抱いて岸に泳いだ。

「どうしたん」

 とメイが来た。

 砂浜で下半身は波に洗われてモイは仰向けになっていた。怯えた目でSを見上げている。

「どうした。海月か」

 モイは首を振った。横に。

「足が。あしがつったんよ」

「アホ」

 Sの背後に、モイの水着を持ったメイ。「なんしよん」

「知らんわ。こいつが……」

 モイが強く手を握ったので、Sは黙った。

「もうかえろう」とメイが言った。

 亀の形をした離れ島の方に陽がかたむいていた。その日は風つよく、波も高かった。

 水着をキロといったがモイは足が痛いといって聞かなかった。Sはモイを背負って帰った。釣り道具とモイの水着はメイが持った。

「なんしよんね、あんたたちは」

 メイとモイの家に着くと、祖母が怒った。

「海月やろう。アホか。薬持ってくるわ」

「ちがう。足つったんよ」

「なんで裸なん。あんたたちは、ほんまアホやわ」

 土間にモイをおろす時、首に回した手をつよく絞めてくるのでSは息が苦しかった。

「モイちゃんはよ、風呂入り。メイもいっしょに」

 Sはメイから釣り道具を受け取った。餌箱が無い。取りに戻ろうと思った。

「S君もはよかえり。もうええから。ありがとうな。ごめんね」

 水着のあとが白いモイの尻と背中が家の中に入った。

 玄関の引き戸がガタガタと鳴った。海辺の集落を強く吹く風だった。

 

本稿つづく

#連載小説
#愛が生まれた日

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