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【連載小説 中篇予定】愛が生まれた日⑧ 

 おれは会場を、それとなく、見まわしたり歩いたり。

 なんとかかんとか。えっと。ファシリテーターというのがおれの役目。自由歓談において、一人きりでいる人というのはよくいる。こういう人の背中を押すわけ。

 しかし現状はその必要はなさそう。いい感じ。おれはこの仕事がたのしいと、初めて感じていた。なんといってもディレクターはおれなんだから、この場の。

 西村四郎と、メイが話している。このメイという女はこの業界では有名。いわゆるパパ活女子という人。パパ活の相手を探しているのだ。

 西村四郎はそつなくメイと話している。メイはヤる気マンマンな感じ。若いし、性慾もつよいのだろう。

「写真いいですか」と四郎が言う。「え、うれしー」とメイ。二人はくっつく。メイはDカップ(推定)の先を四郎の脇に押し付けている。パシャ、パシャ。四郎がカメラ反転の自撮りでツー・ショットを撮影する。

「あの、私、これで失礼します」と四郎が言う。え? メイの顔。「ごめんなさいね。失礼します」と言って四郎は場を離れ、海に向かったカウンター席に座る。スマホを操作してさっき撮った写真をどこかに送信している。それが終わるとノート・パソコンをひらく。鞄の中から何冊かの本を取り出す。付箋がベロ(舌)のように出ている本。本を開き、ノート・パソコンの、多分ワードファイルをひらく。本とノート・パソコンを交互に、にらめっこしている。

 メイは呆気に取られているかんじだが、肩をすくめて、つぎのターゲットをさがす。おれと目が合う。また肩をすくめる。「なんなのあの男。千五百円返してよ」というような目つきである。

 ウィリアム(42)と由希子(31)が話していたが、外交儀礼(プロトコル)を終えて、その後はとくに話も続かなかったらしい。ふたりはにこやかに離れた。

 そこに、メイ(24)が行った。

 ウィリアム(42)は、前にも、パーティで見たことがある。いわゆるガチ勢である。本気で結婚相手をさがしている。職業はIT系。区はここと同じM区だが、MJではなく、D里の出身。母と二人暮らし。母子家庭である。

 ウィリアムはメイとちょっと談笑したが、話はすぐに終わった。ウィリアムのような男は、女が玄人なのかどうかすぐに分かる。そういう女はいくらでも相手をしてきたから。

 メイは玄人なのか。メイのやっていること(パパ活)は職業なのかどうか、微妙だが、まあ玄人といえば玄人なんだろう。

 そういう臭いは分かる。おれにも。

 ウィリアムにはもっと分かるのだろう。

 そういう訳で、メイは早くも二連敗をした。

 メイはため息をついて、おれの所に来た。

本稿つづく

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