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【掌編400文字の宇宙】怒っているように見えるかもしれないがおこっているのではない

 起こっていることに、目を配るだけで厄介である。

 女なんぞ、何の意味もなく、目的も目標もなく、ただ金を溜めてそれが腐ることも知らずにいるのだ。それを世のため人のため、遣うのがわしの役目だ。と思っていた。

 金の切れ目が縁のきれめというが、なかなかその根本を断ちきることはできなかったというか、マニーは湯水のように湧いていたし、いる。

 どうすればいいのかわからない。未来は今。

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「……死が悲しいだけ」という感覚が塊となって、物質のように実際に存在している。これまでの私の理性的または感覚的な想像とか、死一般についての考えとかが変わったわけではない。理屈が変わったわけではない。こんなものもはただの現象に過ぎないという、それはそれで確信としてある。ただ、今はひとつの埒もない感覚が、消えるべき苦痛として心中にあるのである。

 私の頭の中の行くてに大きい山のようなものの姿がある(中略)

 今は悲しいだけである。

◇引用
 『悲しいだけ』(藤枝静男 講談社文芸文庫 2003年9月19日 第十刷)

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