【連載小説 中篇予定】愛が生まれた日(58)二十五年後と三十五年前
悩みは相談しよう。るるる。受話器ひとつでカイケツ、カイケツ。
雪舟(ペドロ、やりもく、ねずみ年)の頭の中で、急にラジオのフレーズが流れた。悩み? 別に無いけど。あるとしたら、外部だろう。と何となく思った。
俺は別にやりたいわけではないのだ。老いるのがまだ納得できていないだけだ。さっさとやりたい。
由紀夫(ウィリアム、婚活ガチ勢)は由希子といっしょに赤ん坊をあやしていた。かわいい。かわいい、かわいい。と由紀夫は思った。盗みたい。
トイレから出た雪美は舌打ちをした。いつ帰れるのだろう。というかもうこれは業務外といっていいだろう。いい加減にして欲しい。帰ろう。どうでもいい。
天知、地知、我知、子知。
ジューン(June スノー・ガーデンの店員)がミント・ティーを運んできた。
「みなさんどうぞ」
みなに配られた。
酒が飲みたいとゆきむらが言った。「ジンがあるだろう。ジンをいれてくれ」
おれは首をふった。
「まだ話の途中です」
「のみながらでいいやん」
one more Question.
「いや、もうちょっとだけ。ゆきむらさん、あなたは、自分のことが好きですか、嫌いですか」
「はあ?」
メイと目が合った。
おれはいつも思うのだが、もっと早く喋りたい。頭の中にあるものをその都度全部出したい。全て。しかし、人間だから出し方というものに限定がある。まず言葉に翻訳しないといけない。言葉の渦。そして、それを表出する方法はたったのふたつ。しゃべるか、書くか。あるいは、第三の方法は。目か。しかしこれは確実性に欠ける。
物理的には書くよりも話すほうが早い。だからおれはラップを身に付けたい。或はスキャットを。もっともっとはやく出したい。今のままでは、全部を100としても、出せても3か4。その程度である。
もし世界一のラッパーになれたら……それでも、出せても6か8だろう。
脳に電極を繋いで電子版で言語化する。それでも、12か16だろう。80%は日の目を見ずに消えてゆく。特別警報級の大雨。氾濫する黄河と長江。それがおれの正体の半分だ。
彗星。地球が滅亡するクレーター。それでもまだ四分の三。
ブラック。黒。吸引。
何百万人。千。億。兆。
見殺しにしてきた。全宇宙。これはおれだけに限った話ではない。この文字を読む者も同じ。呪いあれ。幸あれ。
私は書く前に、いつも同じ曲を聴く。全然違うが、同じ曲をランダムできく。
本稿つづく
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