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【掌編400文字の宇宙】劉淳と第二夫人

 劉淳と第二夫人はスポーツ倶楽部で出会った。

 背筋を鍛えながら鏡を見ると相手が映っていた。目が合ってすぐにお互いが互いを必要していることが分かった。

 第二夫人は既にこの世にいなかったからふたりが会うことができるのは鏡の中である。第二夫人は手鏡を持っていたから、それをこちらに向けると鏡面反射が起きて無限の回廊が伸びた。

 古風な手かがみで、おそらく隋の時代のものかと思われた。経年劣化か元々そうなのか、面は赤みがかっていた。だから、第二夫人のくちびるの紅さがその為か、それとも化粧のためかはわかりにくかった。

 劉淳は砂の詰まった俵を背負って、兎のように跳ねた。膝と足首の軟骨がごりごりと動いた。腹をすかせた狗のような文明が西から、はるかにしから東に押し寄せようとしていた。

 貧農の生まれなので、もって生まれた体いがいには売るものが無かった。だからこうしているのである。勿論、劉淳ももうこの世にはいない。

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