【掌編400文字の宇宙】勘太郎の恩返し
勘太郎がまだ子どものとき、台風が来て団地のドアがぼうふうに煽られて強く閉まり、その際に指の、第二関節から先が千切れたことがあった。
大量に出血したのですぐに救急車がよばれた。勘太郎は運ばれていったが暫くすると軽自動車が猛スピードで駐車場にちゅうしゃし、人が慌てて階段を上がってきた。
「指、おちてませんか」
と言う。
大風というかぼうふう、大雨。廊下はびしょびしょ。あまつぶが飛沫をたてて排水溝に突進している。
孔を見ると、ちいさな指がある。爪もついている。
「あった」
「ありましたか」
といって病院の人はビニール袋に入れてまた階段を下り、軽自動車が猛スピードで坂道をあがっていった。
というわけで勘太郎の指は縫合されて元どおり、というか傷跡はのこったがゆびの機能は失われなかった。
五十年後。
「JJさんですよね。勘太郎です」
老人ホームで話しかけられた。ホームの創設者である。
立派になったと思った。
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