【連載小説】タタラ郡の奇祭②孤独は大政奉還と同時に始まった
ここらへんは斐伊川の上流で、奥出雲。むかしは雲州。と呼ばれていた場所である。
下流に出雲平野。流れる川では砂鉄が取れる。製鉄がさかんで、鋳鉄をする職人も多い。鉄と米で有名。
温泉はなんとなく鉄くさい。
「石田です」
といってさっきの娘さんの母親ぐらいの人が、別の小学生ぐらいの娘をつれて入ってきた。顔が似ている。
ふたりとも全裸。
「お背中ながします」
といって母親の方の石田さんがせなかを洗ってくれた。
娘は向こうを向いて放尿し、木桶で股を洗って湯に入った。流れるみずに赤い紅びらが動いていた。
二人が上るまで湯につかっていたのですっかりのぼせてしまった。自分と同い年ぐらいの別の女がいて、「石田です」といって冷たいお茶を置いていった。
軒先から秋の風が部屋を通っていった。しまい忘れた風鈴が鳴って、芒の穂と不似合いだと思った。
これは夢だとしってみているゆめのような気がしたが現実だった。旅先という感覚がそうさせるのだろう。
夕飯どきになり、居間にいくとこの家の石田が勢ぞろいしていた。8人いる。
さっきの母親とそっくりな女、ふたりは双子らしい。その娘は長女が二十歳ぐらい、その下に、最初にこの家に迎えた娘、その下は三つ子で、小学校高学年らしかった。もう一人は、居るらしいが顔だけ見せてすぐに消えた。色の白い女で、年齢は全然不明な感じの見た目だった。
「ここは、みなさん、あの、」
「女ばっかりで」と誰かが言った。
なんだかその声は家の建屋全体から聞こえてくるみたいだった。
明日はお祭りということで、料理は異様に豪勢であった。肉、魚、昆布、汁、かまぼこ、色とりどりの豆、海藻、山菜。
「ここらでは鮫を食べますんで」
といって椀によそってくれた汁をのんだ。
「これは、鮫?」
「兎で」
20時ごろになって、男たちが来た。
「原せんせい」と呼ばれた。
「え、ぼくですか?」
「そうで」
「あ、はい」
「見てのとおり、こん家は女ばっかしで」
「はあ」
「よそから来る人もめずらしいけ、まれびというんで」
「あ、はあ」
「夜もお願いしますで。明日は祭りですけに」
といって、男たちは帰っていった。なんとなく家の雰囲気がそわそわしているようであった。外の闇は墨をながしたように、黒い。
本稿つづく