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【連載小説 短篇予定】美の骨頂⑪葬送……気もちウラハラ、Across 110th six Streets

 裏原宿の古着屋「氷河亭」は激アツスポットで、店主の氷河院清流さんはエーリー先輩のことも知っていました。エーリー先輩はお父さんが松山(那覇の)でキャバクラをやっていて、大学はここいらへんのZZZ大に通っていましたが3日でやめたそうです。

 やめたことは親に黙ったままで、毎月30万の仕送りを貰って赤羽の高級マンションに住み、朝、昼、晩と遊んでいたとのことでした。

 という話は、弟の弱男(じゃくなむ)さんがしました。

「え、今あいつガールズ・バーやってるの? どこで?」

「那覇です」

「あいつ帰ったのかよ。連絡先知ってる?」

「知りません」

「店のなまえは?」

「えっと、わからないです。……ぼったくりだそうです」

「ケっ。あいつのやりそうなこった。俺、あいつに77万貸したままなんだが」

「はあ、」

「まあいいや。で、これ売ってくれないか」

 と言って弱男さんは手にした芭蕉布を見ました。

「ななせんえんで」

「あ、はい」

 というわけでうちは、首のあたりがひんやりとし、また故国の遺物をうしない、かわりに七千円を手にしました。

 店の奥から女の人が出てきました。

「あら、なぎちゃんにラサカさん、いらっしゃい」

「桃子さん」となぎちゃんが言いました。

 後で凪子に聞いたところによると、この人は弱男さんの元カノで、現在は清流さんの妻で、非出生主義者だそうです。ヒ・シュッセイシュギといふのが何なのかよくわかりませんでしたが、何だか、どこかで見たことがあるような気がしました。

「あなた、沖縄の人なの? わたしも居たのよ、S高校に、一瞬だけ。知ってる?」

「知ってます」

「あなたも、そこに?」

「いえ、うちは那覇東高校です。生まれたのはM港で、東京にもちょっといて、育ったのは那覇です」

「へえ。那覇のひとなのね」

「はい」

「都会っ子なのね」

「いえ、」

「あなた、幽霊は見えるの?」

「見えません」

「よかったわね。あなたはきっと幸せになるわ」

「はあ、」

 うちは、おとうの祖母の姉が源河ノロだったということは黙っていました。ガスコンロの火のことも。

 ガスコンロの火というのは、

 いや、細かいことを話していたらキリがありません。

 うちは、何となく、半処女の第六感で、桃子さんと今話したことは墓場まで持っていこうと思いました。おかあの顔が浮かんで、そう言ったような気がしたのです。

 日が暮れて、I袋のホルモン焼き屋で、凪子とラサカさんとうちで乾杯をしました。うちは七千円分のアルコール飲料を一度に注文し、つぎつぎと飲み干しました。

 東京の人は、色々と食べながら、少しづつのむのですが、こういう飲食の仕方はうちの血統には合いませんでした。

 うちののみかたは、まず、食事を済ませる。松屋とかで。それから酒屋ではちょっとしたつまみをアテに鯨のように飲みます。通常はここで酔うのですが、うちはよったことがありません。

 酔っ払いは、千鳥足で家路につきますが、途中で拉麺や沖縄そばを食べます。そして翌朝、洗面器一杯の水をのみ、庭や不浄に吐いて、また水をのみます。

 普通は。

 しかしうちは決して酔わないので、ただ家路につきます。シャワーを浴び、髪を乾かして、ハーヴティーをのみます。

 この時いつも思うのです。

 ひとそれぞれなんだと。




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