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【連載小説 中篇予定】愛が生まれた日㉓ゆきむら、帝王切開、nothing's gonna change

「もしもし、ゆきむらさん」

「はい」

「あ。今、警察におられる?」

「うん」(受話器をおさえる)「暴行、公務執行妨害だって」

「出てこられないのですか」

「うん。はい。無理そう」

「ちかくにいる人とかわれませんか」

「はい」(かわってて。え? 嫁のあれ。病院のひと。だから生まれる言ってるやん、さっきから。え。かわれんの? なんやあんた。話したらいいだけやん。はあ? そんなこともできんの。はあ……)「もしもし。いかんのやって」

「はあ」

「柚木(ゆき)はどうなっとん?」

「はい。あの、もうすぐ生まれそうで」

「そうなん。というか、どこにおるん?」

「スノー・ガーデンという店です」

「ああ知っとるわ。なんでそんなとこにおるん?」

「えっと。婚活パーティーでして」

「え?」

「婚活パーティーでございます」

「こんかつ? なんで柚木がそんなとこにおるわけ?」

「いや。えーっと。たまたまといいますか。というか、先ほど電話を差し上げた時、ゆきむら様はどこに居たんですか?」

「……どこって。仕事よ」

「お休みの日も仕事なんですか」この日は日曜日だった。

「う、うん」

「そうですか。兎に角、すぐには出てこられないのですね」

「うん。ちゅうかわからんよ」

「わたし、これからあなたの奥さんの。帝王切開をします」

「そうですか。え、先生でしたか」

「ちがいます。わたしは医者ではありません」

「え?」

「わたしはミルミルヤレルの○○○と申します」

「え? やれる? あなた誰」

「○○○です。ゆきむらさん」

「はい」

「不安です。ご期待にそえないかもしれません」

「え」

「帝王切開をするのです。いまから。医者はいますが、医者ではないわたしが切開をします」

「え。お医者さんに」

「それはできないのです。科がちがうので」

「か?」

「看護婦はおります。これはSレディースクリニックに勤務している看護婦です」

「そうですか」

「そうです。だから、おそらく何とかなるとおもいます」

「オソラク? いやいや」

「どうにもしようがないのです。じゃあそのままにしますか。破水しているのですよ」

「えっと」

「どうすればいいのですか? このままだと母子ともに死にますよ」

「いやそれは困る。おねがいします」

「じゃあ、わたしが切りますよ。いいですね」

「はい。はい。おねがいします」

「切りますよ」

「おねがいします」

 ピポ。電話切った。さあ、切ろう。

本稿つづく

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#愛が生まれた日

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