【連載小説】タタラ郡の奇祭③ワルプルギスの夜
明日は祭りということだから、今夜は十四夜なのだろうと思った。しかし、それにしては昏い。くらすぎる。
この家の女は双子も三つ子もいるが、それにしても全員ほぼ同じ顔だった。というかこの集落が、男も女もよく似ている。弥生風というか、大陸顔で、柄が大きい。
こういう女に、高校生の頃に会ったことがある、と思った。自分は常に、女の方が多い環境で生きてきた。叔母さんたち、妹たち。大学の学部も女の方が三倍ぐらい居て、そして今も……。
銅鑼の音と笛のね。もえあがる火の残照が神社の方向の雲を照らしていた。なんとなく蒸し暑い。蚊取り線香のにおいと、自分の煙草のけむりがまじっている。
寝具に横になると女たちが8人きて、そういうことになった。こういう場面は美術館の絵で見たことがあるし、映画でみたのかもしれなかった。苦い茶をのまされ、8回やらされた。
朝。
「ありがとうございましたで」
と、家に来た石田さん(男)に言われた。
「はあ」
くたくただった。温泉に入った。三つ子の娘たちがきて、湯につかりながらじゃんけんをしたり、山の話をしたりした。ひとりが葉っぱを千切ってきて、
「これよ、あんさんがのまされたの」
といった。大麻だった。
「もう帰らんで」
と言われた。
「うーん」
しかし自分は帰らなければなかなかった。
気が付くとこの温泉は集落のひとたちでいっぱいだった。垂れた乳房や老いた陰茎、久しぶりに帰ってきた男たちの筋肉や脂肪。その家族たちの、都会の白い肌が湯にあたって紅くなっている。
朝ごはんは蕎麦とぜんざいだった。
「餅はいくつ入れなさる?」
「ゼロ個で」
自分は餅があまり好きではなかった。
ぜんざいの豆は卵巣に似ていたし、また精巣にもにていた。それらを噛む。あまい。
夜明け前から鳴っていた銅鑼と笛はますますその音を増していた。
「きょうは祭りですけに」
土間でどたばた音がするので覗いてみると、昨日の、色の白い女がセーラー服を着せられて縛り上げられ、男たちに乱暴されていた。ぼこすか殴られていたのである。
「ちょっと、」
と止めようとすると、
「祭りなので」
と石田に止められた。
白い女もこっちを見上げ、うんうん、と頷いた。こういうもの。こういう風習。要するにこれが原理だ、ということらしかった。
しかし本当に殴られて、ほんとうに血だらけになっているのだが。
本稿つづく