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【読書記録】「KYOのお言葉」 入江敦彦

タイトルから容易に推察されるように、みなさんご存知あの京都人にお目にかかって話す羽目になった時のための処方箋としてもある程度使えるだろうが、それ以上にああした方々が子供の頃からどっぷり浸かってきた京文化の真髄を知るカルテとしての価値が高い気がする。

形だけの言葉で浅薄な表現を並べた「えずくろしい」だけの非府民に対して、身の程を弁えて驕り高ぶらず多きを望まない、いかにも奢侈に飽きた都人の感性をお持ちでらっしゃる。これがどうやら「よそはよそ、うちはうち」の考えからきているらしい。まあよそというより「よそさん」がいいんだろうが。「あんたのすることにはなんも言わんけど、その代わりあたしのこともほっといてんか」なんて、思ったよりも個人主義っぽい一面があるようだ。

この個人主義的精神に加えて、「京の昼寝」や「京の町人は五位の位」なんて言葉に現れる圧倒的なみやこ意識、それに関西の中でも比類のない音韻変化を伴うことで、他の地方では絶対に生み出されることのない、誰もが知るあの言語体系が生まれるのである。

ただ印象的だったのは、「表と裏」という言葉が(少なくとも記憶の限りでは)一度も出なかったこと。要は外界の田舎者どもがウラだオモテだと恐れる京言葉ってのは、当人にとってみれば全部オモテであって、向こうからしたらろくな言葉を使っていない我々なんざ「やすけないもん」やなぁと思われとるんとちゃいますの?よう知らんけど。

んなことツラツラ書いとったら「よう勉強してはりますなぁ」なんて言われかねんわ。田舎もんはせいぜい身の程弁えて田舎弁喋れってんだってな。

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