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【読書記録】「ユダヤ人に学ぶ危機管理」佐藤龍己

ユダヤ人が幾千年もの苦難の中でいかに「民族として」生き延びたか、またその知恵を現代でもどのように使っているかが述べられている。

まずユダヤ人の危機管理の源泉はトーラー(旧約聖書)である。数々の軍備編成、軍事作戦はトーラーの記述をもとにしていると思われる。ユダヤ人が若かりし頃からトーラーを暗唱し、いつでも必要箇所を引用できるようにしているからというのが、この危機管理能力を裏付けているようだ。

このトーラーだが、原文はもちろんのこと注釈書や解説書、参考書などで日々研鑽を積むことによって、子供に限らず大人になってもなお深い思考を続けるというのが、ノーベル賞に圧倒的な人数を輩出するに至った思考力を下支えしているという。

この話を読んで脱線するが、「日本人に無駄に漢字を教えると、他の勉強に必要な知識を与えることができない」というのは、あまり的を射ていないように思われる。

理学の理論を学ぶ自分にとっては耳が痛かったが、イスラエル軍は常に「現実主義」らしい。独自理論で大敗を喫した旧日本軍のインパール作戦を引き合いに出す形で、イスラエルにおけるインティファーダ(パレスチナ人民衆蜂起)への対処を描いている。

初めはパレスチナ人に対して射撃などの物理攻撃を施していたが、国際世論に批判されるに従って別の手段を要求された。ここで既成の理論を踏襲せずに、パレスチナ内部に諜報部隊などを送り込んで内側から攻撃を阻止させるという手法を取るに至ったという。

イスラエルは現在でも戦時体制である。テルアビブではある程度平穏な暮らしができるとはいえ、時にはテロが発生し、パレスチナは常に先頭状態である。このような国においては必然的に国家政策は軍備防衛が中心となる。

とはいえ世界地図で見れば米粒ほどの土地に微々たる人口しかいない国、そんなイスラエルがアラブと渡り合えるだけの軍事力を維持し続けるには、途方もない犠牲が必要となる。男女問わず徴兵が義務付けられ、買い物には高額な税金がのしかかる。しかし、現実にテロが頻発し戦争が多発している以上、防衛政策を怠れば文字通り生命に関わるので、国民の意識も高い。この点我が国とは状況が異なる。

しかしユダヤ人の安全に最も寄与しているのは個々人の危機管理意識であるという。家族とは密に連絡を取り合い情報交換し、有事の際の行動を前もって決めておく。こうした「当たり前のこと」を、ここに差はあれど欠かさずに行なっているのが眩しい。ああ、耳が痛い耳が痛い。

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