【読書記録】「日本再興戦略」落合陽一
前回の安宅和人の本から繋がりで読んでみた。
若干自己啓発系のベクトルが強く出てきているのが、自分勝手ながら残念に思ってしまうところだが、これを「日本式脱近代」の本として読めばかなり面白いものになっていると思う。
この本の最大の魅力は「欧米」という幻想を打ち砕くことにある。日本は明治以来、「欧米」というものを一種の目標として盲信してきた。しかし歴史を鑑みればおおよそ検討がつくように、欧と米はかなり異質なものである。旧大陸と新大陸という差に加えて、小密と疎大という地理的性質も相まって、ルーツは同じであっても精神性がそれなりに異なる。さらにはラテンとゲルマンでも文化的性質に大きな違いが見られ、特に独仏の対立的な国民感情は有名だろう。我々はこれほど多様な文化を一緒くたに「欧米」とよんで崇拝してきたのである。
本来はマレーシアでルックイーストが叫ばれた時点から、日本は東洋という枠組みに自信を持っていてよかったはずなのである。もっと言えば戦前の大東亜共栄圏構想も、そこに現実的な運営システム(これこそ絶対に欠如してはならないにもかかわらず欠如してしまっていたものだったのだろう)があれば、十分魅力的なアイディアだったのかもしれない。
これに加えて日本では拝金主義が跋扈してしまった。著者自身は「トレンディードラマ的世界観」によるものだとしている。他にも歴史的・精神的裏付けのない個人主義・近代思想の定着なんかも拝金主義を形作ってしまったのかもしれないが、とにかく日本には個人主義は絶妙に相性が悪いようだ。著者自身は、上下という意味を除けば士農工商の区別はいいシステムだという。陰キャ陽キャ、勝ち組負け組なんて形で差別感情を生む現在の日本にこれを導入すればそこに上下身分関係が厳然と現れるのは火を見るより明らかだが、確かに現代的な形の四民平等(つまり金でセレブを買えてしまえるような状態)によって誇りや品格というものが失われたことは前々から問題に思っていた。
後半は啓発的な話が出てきて個人的には辟易するところもあったりしたのだが、前半の脱近代の話は拝金主義者の皆さんには是非読んでいただきたいものである。まあ、自己啓発の棚はもういらないかな。