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【読書記録】「通論考古学」濱田耕作
日本考古学の父と呼ばれた濱田耕作による、当時唯一と言われた考古学の学術入門書。明治・大正の、写真が普及しだしたあたりの考古学の手法が知れて面白い。同時に炭素年代測定があるのとないのとでは、史料の時代決定精度に雲泥の差が生じることも透けて見える。拓本だけで1小節を成すくらいである。
解説によれば、日本では在野の考古マニアが古くから多く、それゆえに遺物蒐集・遺跡探索は趣味としての側面が大きかった。当時日本に考古学の教授が著者ただ一人だったことと合わせて容易に推察されるように、考古学者としてのモラルはほとんど普及していなかったようである。その点、本書では具体的な研究手法よりも学者としてこの学問に臨むにあたっての姿勢を説くところが多い。遺跡の発掘は破壊であるから、いかなる調査においてであれ一にも二にも遺物を破壊する責任が求められる。
特に炭素年代測定の登場によって研究手法は大きく変わったかも知れない。しかし本書で最も強調されているモラルは時代を経ても色褪せるものではない。新技術が現れた現代においても本書が通用すると言われる所以は、きっとここにあるのだろう。