【読書記録】「取材・執筆・推敲 書く人の教科書」古賀史健
この手の本では珍しく500ページ近い骨太本だが、教科書というタイトルも差し支えない。文末表現やレトリックなどの小手先のテクニックを弄するのではなく、一にも二にも論理構造を頑健なものにせよ、というのがライティングを論ずる文章の中でもこの本に特有のものである。近頃フィクションを読まずアカデミックライティングに慣れ出してきただけに、この主張は大きく頷くところが多かった。
第1部に取材の項目を挙げている。本書では、世間に伝えたいことはあるが声が小さい人に代わって、いいアイデアを世の中に広める人としてライターを位置付けている。そうでなくても文章を起こして世間に放り出し金を取るからには、主題となるコンテンツが必要である。そのコンテンツを誰よりも深く知る、というのが文章書きに必ず要求される。文字を書くだけがライターの仕事ではないとは百も承知だが、ライティングの教科書に下拵えの取材を盛り込むのは、適切であると同時に革新的でもあるのかもしれない。
小手先とは言わないが、テクニックもそれなりに書かれている。
取材者固有の文体を掴む
語った内容同様、どう語ったかも重要
取材の間の挙動も記録せよ
己の伝えたいことと読者の知りたいことを一致させるために
動機「面白そう」
驚き「知らなかった」
理解「わかった」
衝動「もったいない」
書くのではなく、翻訳せよ
思考や感情、外部の情報を言葉にすることを習慣化する
3次元の話し言葉を1次元の文字情報に落とし込む遠近法は論理構造
取材の直訳ではなく、誤訳を伴わない翻案、創作へ
説得ではなく納得を
課題設定→課題共有→課題解決
起承転結より起転承結
絵本に学ぶ
絵本には捨象をくぐり抜けたもの(絵)と捨象されたもの(文)が混在する
桃太郎を10枚の絵で表せるか
構造の頑強性=全てのシークエンスから最低1枚
情報の希少性=桃太郎を桃太郎たらしめるものを外さない
課題の鏡面性=自分ごと化、感情移入、登場人物の応援をさせる
話の行き先ははじめから明示する
読書体験を与える章組は百貨店を見習う
第1章:世界観の提示(化粧品・ハイブランド)
第2章:本論(レディース)
第3章:具体の展開(カジュアル・ユニセックス)
第4章:視点の転換(メンズ・フォーマル)
第5章:専門的議論(専門店・インテリア)
第6章:反芻と達成(レストラン)
後書き:景色の一変(屋上)
インタビューでは人を描く
脱線・化学反応・交換
対談は両者の関係性を描く
二つの文体を書き分ける
対立点と一致点を明確に
エッセイは徹底的な観察を要する
コンテンツは普遍的に
レトリックは想像の補助線として
具体的・映像的に
読者にわかる比喩を
比喩は遠い題材が面白い
ストーリーの構成
時間の流れではなく論理の流れ
起伏より距離
推敲は迷ったら捨てる